第11話 終わりのはじまり

 葉菜子は窓辺に居た

どうなってるの?

この世界


葉菜子の姿がブレる

葉菜子の内面からHanakoが出てきた


行くところまで行こうとしているのね

バランスが悪いと思っていたけど、ここまで崩れるとは

小市民としての成功を味わいたかった。ちまちまビジネスをした

人並みの楽しみや喜びを感じていたけど、こうなってしまうと、この小市民的な生活はもう許されないのかもしれない

 こうなったら、派手にやるしかないのかな

運命は許してはくれないのね

 葉菜子は右手の長指と親指でこめかみを押さえた

Hanakoはブラインドで半分だけ見える風景の様に細切れの帯状となり、空間に溶けていった。昔の人に信じられた龍は、きっとこのように消えたのだろう


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猪瀬はいつもと同じ時刻に目覚めた。同じ様にトイレに行き、窓をながめた

暗いな。雲が厚いのかな。

窓を開けて手を差し出すと、雨は降っていない。

どうなっているんだ

街が真っ暗だ。いや、黒い。岩肌の様な筋が微かに見える

目が慣れてくる

照らされた雲には見えない。自ら発光している様な薄気味悪いフォルムが浮かんだ

窓を閉め、スマホを手に取った

SNSがおかしな反応。圏外だった

部屋のWiFiの機器を眺めると、LEDのランプに異常な感じはない

いやまてよ、まさか、基地局ごと逝ってしまったってことはないだろうか。

この、黒い空を見ると、想定した最悪が常に選択されると思わされる


チャイムが鳴った

こんな朝早く誰だよ。休日が台無しだ

重い腰を上げ、玄関モニターを覗き込むと妙な画像が映っていた

どうしたんだ。カメラが曇っているのかなあ。

顔にモザイクがかかってるように画質が荒れている。どういうことだこれじゃ誰だかわからんじゃないか。


どなたですか?

猪瀬、俺だよ。俺早く開けてくれ。


俺って誰だよ。モニターじゃわかんないけど、この声には聞き覚えがある


がさつで遠慮がなく、自分の運命をすねているかと思えば、無駄な自信があったり、馬鹿なのかなと思ったら、妙に知識があるやつ


朝っぱらからなんだ?

いいから開けろ。お前はいいとこのお嬢ちゃんか

ストーカーに合い始めの人はこんな思いでドア開けるかどうか迷うんだろうな


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この日の朝、放送局がパニックとなった。いやまずは日本中、津々浦々の駅でパニックが起こっていた

そして日本政府は、すべての閣僚を総理大臣官邸に招集した


岸川総理の脇には、白衣の医者が座っていた


白衣を着てないと医者とわからないでしょ。だから私は特別に着ているんです。目頭を抑えたまま白衣の男は話しを続けた

 すべて正常なのですが、なぜか人を正しく認識出来ない現象が各地から報告されています。人を認識と言いましたが、人の顔の認識ですね。それだけがおかしい。私にはわかりません。人類の歴史上、こんなこともなかったはず。いや10000年以上前はわかりませんけどね。


恐ろしく、急激な変化

人類は、人の顔を区別ができなくなった

他者と他者、他者と自分

顔の区別ができなくなった


認識する脳の回路が攻撃されていた


海馬の一部が麻痺する現象がもたらす絶望は、空を黒く覆いつくしていった

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人類総安楽死計画 Guppy of The Zroos @Guppy_of_The_Zroos

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