第7話 いい加減にしろ俺の運命

 昼飯時、猪瀬がいつもの社員食堂の席につき箸を手にすると、背後から渡辺が来た

「こんなに混んでいるのにお前の横だけ空いているとは・・・はっきりとは言いたくはないが、人気とか人望とか、そういうことか」

「なにがそういうことかだよ。そういうことではないんだよ。偶然さ」

渡辺はトレーを猪瀬の横に置いて座った

「そういえばあの赤池葉菜子は休みだそうだな」

「そうだね、体調不良らしい」

「体調不良だとしても消えてなくなってないのならいいわ」

「ちょっとだけ心配なんだけど・・・。警察から見せてもらったビデオから言えば、何の問題もないんだけど。・・・ただし俺には、ちょっと彼女の車が浮いているように見えたけどな」

「気にするな猪瀬。俺はそのビデオ見ていないけど、彼女の車で彼女が運転して、ちょっと浮きながらでも道に沿って運転できているのだったら、全然問題無かったんじゃないか」

「浮いていても問題ないか?」

「無人販売に付いていた監視カメラの映像なのだろ。そりゃちょっと浮いていたりひっくり返ったりしているかもしれないじゃないか」

「そう言えば画質は悪かったかな」

「浮いていると言えば、お前だって職場では浮いているぞ、気にするな・・・そのビデオの話で、結局のところ警察はビデオの何を確かめられたんだっけ?」

「一つには車が赤池さんのものかと、二つ目には、運転者が本当に赤池さんかという部分だね」

「それで、その通りなんだろう?」

「そうなんだけど、力が入っていないというのか、シートにもたれかかっているというのか、ハンドルをきらなくても曲がっていっているというのか」

「煮え切らないな、違和感はあったということだな」

「そうだ」

渡辺は、はっとした顔をした

「そういえば、肝心なことを忘れていないか? 俺達の会った謎の誘拐魔とそのトラックはどうなったんだ?」

「確かに言われてみれば、あいつは何だったのだろ?・・・ベトナムかアフリカの盗難車輸出組織が赤池さんとは別の誰かの同車種をもっていったんじゃないかな」


「いや、待てよ。ランクルを盗むならまだしも、軽自動車を盗むか?」

二人はしゃべりながらも唐揚げ定食を食べきった


お茶を二人してぐっと飲んだ。

「猪瀬は政府からとんでもない発表があるという噂を聞いていないか?」

「噂はあるね。でもフェイクニュースだろ」

「なんでも、永田町にある内閣府庁舎別館ってとこで重要な会議があるらしい」

「なんで、渡辺が知っているんだ?」

「それは俺の”ムームムー”人脈だ」

「”ムームムー”とは、あの月刊誌の”ムームムー” か?・・・一挙に信頼性が低くなった」

「まあそう言うな。秋葉原にも用があるんで、今週の金曜日に有給休暇を取って行ってみるか。急だがね」

「まあ、いいけど、またお前とランデブーか・・・俺の人生設計の狂いが甚だしいな」

「もし、人類全体に累が及ぶ大事件だったら、人生設計も、順調なサラリーマン人生も、出世もへったくれも全てチャラだ」

「そうだよな」

大事件があってもなくても、お気楽に休暇を取るサラリーマンとしか周囲の目に映らないことを、猪瀬はもう運命と悟っていた



――――――――――――――――――――



 風間は自分の部屋を暗くして、ベッドに入り天井を見ていた

ここ数日の出来事はどこまでがリアルで何が幻なのか良くわかっていない

もう一つの世界があることは認めざるをえない

本当は認めたくはないが、そうなんだ

俺の頭の中に直接に知識が入ってきたということが事実の1つ

それだけは確かだ

しかし、俺の中に入ってきた知識には、古い思い出や新たな記憶は入っていなかった

俺は何者だ

純粋にこっちの次元の人間と考えて良いのか

それならなぜ、こんなに奇妙な思いをするのか?

この世界での思い出を持つ俺が、俺のすべてか? 別の俺がいるのか・・・


俺の知らない俺がいるという一番めんどくさい状況のような気がする・・・


しかし、ギフテッドと言われた頭脳を持つ俺は、限られた情報からも真実に迫ることができる

あちらの世界に俺のオリジナルデータは無いのではないか

痕跡があったのかもしれないが、無くなってしまったのか?

無くすなよ、人の思い出を


あっちの次元には居たとしたら、おそらくこの次元に来た時に記憶は無くなってしまったのだろう

あくまでも、仮定の話だが


 この俺の能力を考えると、あちらの世界と全く関係ないというのは無理がある

結論としては、俺のルーツはあちらかもしれない

もちろん、こっちの世界でも俺は適応しているし、充分に成功もできる

両親、親戚も何も不自然さは無い

俺の有能さだけが不自然

おそらく、俺だけに不自然さがある、それがあっちの世界にいたことに起因する


次元を乗り越えるのは難しいところを、俺はなんとか乗り越えたのかもしれない

こっちの時間では短いのだが、向こうの世界では長い時間が経ち、ようやく最近、自由に次元を乗り越えるようになったとも考えられる


それがここに来ての変化点

時代の大転換


あの時、目がチカチカした

諏訪原城で赤池葉菜子と会っている時だ


俺はブラックバードに吸い込まれた

そして新たな知識が直接頭に注入された


そして気が付いたら、眼下にスイスのCERNの施設が見えた。素粒子加速装置関連の巨大施設、大きな輪っかだ。

それにしても、この鳥はどんなスピードなんだ

さっきまで日本にいたのに、はっと気がつくとヨーロッパ

どうなっているんだ

だが、俺を見くびらないでもらいたい

俺の頭はきれる

俺には薄々わかる

俺とブラックバードはただの"波" でしかない

ブラックバードはそれでいて重力の塊

浮遊する重力の塊

地下には全長27キロメートルの大型ハドロン衝突型加速器があった

俺と一体化したブラックバードは加速器設備を襲った

実験のタイミングと合わせて襲ったので表向きには気づかれなかった

単なる実験の失敗

きっとそう思われたと思う

ブラックバードが見える人間はまずいない

ただの重力の塊

どうにも捉えられないだろう


なぜ、スイスのそんな施設を狙うのか

それは、その時思っていた俺の疑問だ


今となってははっきりと分かる

頭の中に入り込んだ情報、もらい受けた印象がある

素粒子の謎が、あっちの次元との関係を解く鍵になっている

だから、素粒子の謎を解くような施設には、退場してもらいたい

鍵は渡さないということ


なぜ、ブラックバードは俺と一体化するのか

俺と一体化しないと形状が確定しないのか

俺のブラックバード

それは大きな弱点だな


 そして俺としたことが余計なことをしてしまった

赤池葉菜子をダークワンの運搬車から助けてしまったのだ

しかし、それをしなければ俺でなくなってしまう

だから、俺はそうした

彼女が望んでいない苦しそうな状況だったから、ブラックバードでぐっと重力をかけてやった

あれではあのトラック野郎どもはひとたまりもない

あいつらには長く苦しい時間だったはずだ


あの行動が敵対行為と思われたか、どう思われたのか・・・

今のところ、攻撃もされてないし、頭の中に自爆命令は来ていない


 俺はこちらの世界ではイケメンで特別な存在だがあちらの次元でも特別な存在なのか?

許されている?

把握されていない?


利用できるうちは利用されるのか・・・

怖い、怖い。

今できる事は様子見しかない

ダークワンは決してなめていい相手じゃない


ブラックバードはかわいい奴だ。それだけが救いか。きっと幼い頃からの友達だったんだろう

奴との仕事は楽しい


 それにしてもこれからの俺のミッションへのモチベーションはどうすればいいんだ

こちらの政府からの命令をどの程度本気に受ければいいんだ

 悩む事は無い。今まで通り、俺の胸の中が熱くなるよう動けばいいんだな

日本政府のミッションはほぼ無視。ダークワン?別口?のミッションは是々非々で行こうか


俺らしく生きていくしかない

1人で・・・

いや、もう1人俺と似たような境遇の女が居る。あいつとだったらどうかな・・・


疲れた・・・このところの疲れは尋常じゃない

ーーー

おっと寝てしまっていたようだ


なんだ、カーテンが揺れている

窓が開いているはずはない

どうしたんだ


窓は閉まっていた

でもカーテンは揺れていた

カーテンを開けてみる

そこには黒い翼

限りなく龍に近い鳥


またお前か


何だ、今度は何をしたいのかを聞いてからでないと協力できないぞ

俺の頭に直に答えろ


俺は目をつぶって集中した

頭に入ってきた。データなのか呪文なのか

でも

よーく理解できた

そんなことができるんだったら、隠密裏に仕掛けているらしい小細工は必要なのか?

策を弄する必要はないだろう

余計な苦労だ

なんでもできるのではないか?

この次元の地球人の勝ち目は全くもって無い

どう理解すればいいんだ?

こんなことができる連中がなぜ、これ程慎重に事を運ぶのだ?

俺にはまだわからない理由があるんだろうな


びっくりすることに、今回のミッションは誘拐だ

落ちたものだ

 あのトラックの野郎にやらせても達成できないと言うことか

誘拐のターゲットが俺みたいな特殊な人間ではなく、生身の人間だとフィジカル的にまずいんじゃないのか

本当に大丈夫なのか? ブラックバードに問いかける

無駄な殺生はしたくない

ブラックバードに何かされたら、良くて仮死状態、悪くて無となる。

きっと全てお見通しの人たちなのだから、すべて承知しているのだろう


今の俺としては協力するしかない。勝ち目は無いのだから

ブラックバードに押しつぶされたら、いい男が台無しだ



――――――――――――――――――――


永田町内閣府庁舎別館の一室

完全に秘密の会議

政府の要職と科学会の要職、防衛畑の要職が一同に集まり、この分野の日本初の公聴会が開かれた

総理大臣だけ不在なのは外遊に行っているからだ

これには、総理大臣抜きで方向性を決めようとの意識が誰からか確かに働いていた


山田名誉教授は、新しい次元の謎人間ダークワンの存在をぶち上げた

そしてその謎人間と友好を結ぶよう意見を添えた

緊急発表をすれば、日本が世界をリードするチャンスと弁を振るった

 官僚組織では、内閣情報調査室の山梨室長と川中がそれに沿う意見を出した

他の官僚はさすが、あまりにもの事柄の重大さに頭が回らない

どうしたものかと

会場はさんざんにざわついたが具体的な意見は出ない

しかし結論は出た

ありがちな先延ばしだ

これはダークワンの意向とは違っていた

ダークワンはこの国の意思決定を読み間違えていた

事実は、都合のいい事実こそ事実で、都合の悪い事実は引き続き検討すべきものなのだ

この国の官僚機構ではそういうことになる

この調子だと永遠に検討で終わる

ダークワンは作戦の変更が必要となった


会議の末席に馬場も参加していた。

会議での山田教授の変化に少々違和感を持った

「この前に会った時より、山田教授はまた更に前のめりになっていたな・・・」


部屋から出てゆく山田教授を追って馬場が急ぐ

「山田教授、ご苦労様でした」

「おう、君は確か・・・」

「馬場です。いやだな・・・データをまとめるのが大変でしたでしょう、ご苦労様です」

「そうだな」

「早速今からいきましょうか。前回に約束しましたよね」

「・・・そうかい」

「忘れてしまったのですか? おいしい料理を出す飲み屋に案内しますよ」

「しかし今日はいいよ、疲れたからそのまま帰らさせていただくよ」

「そうですか・・・」


馬場は立ち尽くした。

何かが違う

前回、山田教授と会った時、山田教授の純粋な部分、健気でいとおしい部分を感じた

しかし、今日の山田教授には温かい情が感じられない

飲み会の約束に気を留めていない山田に、馬場はぞっとした

「まさか・・・」



――――――――――――――――――――



永田町内閣府庁舎別館を見下ろすビジネスホテルのラウンジのしょぼくれた喫茶店で猪瀬と渡辺はメロンソーダを飲んでいる


店のテレビでは、アメリカ、中国、ロシアの軍隊の高官が相次いで消息を断ったことがニュースで報じられていた


「物騒な世の中になったもんだ」渡辺はティアドロップのサングラスをかけ、2世代前に流行った某軍団俳優の刑事を目指しているようだった


窓の外を見ると、前に見た気がするトラックがあった

猪瀬と渡辺は胸騒ぎがした

二人はラウンジを出て一階に降り、ホテルの外に出た

トラックは見当たらない

渡辺は猪瀬と顔を合わせてから、天を仰いだ。

代わりに、勝手知った自販機を見つけると二人は故郷に帰った気がした

知らず知らずの内に、都会で二人は緊張していた

気を落ち着けるよう自販機で缶コーヒーを買った

メロンソーダの口直しで缶コーヒーって、糖尿の足音が聞こえると猪瀬が思ったところに、騒がしいエンジン音が聞こえた。

トラックが目の前を通る

こんな都会の真ん中で、無理にトラックが駐車しようとしている

なんとも言えぬ不自然


馬場はまさにその道の歩道を、駅方面に歩いていた

白い不自然な塊が動いている

トラックのハッチが開く

馬場が歩を進め、トラックの方向に更に進む

トラックの横で白い塊が揺れる

白い塊から腕が出て、馬場がその腕に支えられぐっと宙に浮く


渡辺と猪瀬は目を剥いた。知った顔を認識したからだ。例の誘拐犯だ

あの誘拐犯が、二人が知らない中年男性である馬場のそばに立ち、馬場の自由を奪っていた

二人は走った

こんな真昼間からなんて奴だ・・・渡辺の手には缶コーヒーがあり、誘拐犯に向けて缶コーヒーを投げた

放物線を描き、馬場の頭に缶コーヒーが当たった

白い防護服の誘拐犯は慌てて手を離し、馬場は空中を3回転し更にひねりを加えて、すぐ隣を歩いていた2人の通行人を巻き込んで倒れ込んだ

誘拐犯はこちらを睨んでから諦めたようにトラックに乗り込んだ


「あいつ、恐ろしい奴、まさに誘拐魔だ。あんなおっさんまで誘拐するとは、とんでもない性癖だ」

「あのおっさん、大丈夫かな」


猪瀬は巻き添えを食った通行人から馬場を剥がし、肩を揺すって声をかけた

「大丈夫ですか。わかりますか?大丈夫ですか」

渡辺は首に手を当てた

「脈はある。大丈夫だ。もしもーし、あなたはトラックの男に変なことされたんですよ。 わかります? あなたはトラックの男に頭を殴られたのです、トラックの男にやられたんですよ」

「分かったよ、渡辺、お前の暗示のような声え掛けはすごいな。お前の生命力の半分でもこのおっさんにあれば」

「分かってくれれば良い」

「反応がちょとづつ変・・・」

 2人は意識朦朧とした馬場の背中を支えて近くのベンチに座らせ、しばし時間をかけて見守った


「別の方策は無いのか? 渡辺の缶コーヒーを投げるクセだよ。それどうにかならないか?・・・投げる度にいろんな種類の被害を引き起こす」

「良い面もあるだろ。今回も誘拐を未然に防げた。素晴らしいことだ。ブルペンで肩をつくる前に登板しなければならないという宿命があるが、それはどうもしようもない」


 猪瀬と渡辺は馬場を警察の保護下におきたかったが、警察と顔を合わせたくないので、最寄り駅の駅員に酔っ払いとして保護を頼んだ。

一応、2人の名刺だけ渡しておいた。それが2人の良心であり、同時に保護のお礼が期待できるかもしれないとも考えた結果だった


――――――――――――――――――――


2人は車を走らせ、都会は後ろに去った

田舎が二人を包み込んだ帰り道、渡辺が猪瀬に、葉菜子を見失ったあの場所へ行こうと誘った


「いやだよもう眠い」と言ったが渡辺は聞き入れようとはしなかった


相良牧之原インターを降りてすぐの交差点の赤信号で止まった。高天神城までは車で1時間弱


猪瀬が「近くの諏訪原城でもいいんじゃないの?」と提案した。疲労で再度、心が折れてきた


「馬鹿者そんなわけにはいけないだろ、と言いたいところだが、疲れてるからあそこでもいいや、この状況をまとめるような良い考えが浮かぶかもしれん」


山間の道、諏訪原城は目立たない

高天神城も田舎の寂れた山城だが、諏訪原城の方がもっと寂れている


「諏訪原城で良かったよかった、高天神城まで行ってたら、もう頭クラクラして、今でも目がチカチカしてクラクラしてるよ」

運転席の猪瀬が弱音を吐く


「そういえば僕も目がチカチカしてるよ」

渡辺も同調


「またかよ」


猪瀬は車を道の隅に寄せた。2人は目をつぶった


「あーよかった。何もなかったやっぱり俺の行いが良かったんだ」


「そう言い切れるかな。おーい猪瀬。ルームミラーに妙なものが写ってないか? 相変わらずファンキーな車だよ」


「なんだこれ・・・。おっさんが口を開けて寝ている。それも、外国人のおっさんの酔っ払いが3人も居る」


2人が後部座席を振り向くと、3人の初老の男が寝ていた


「おい、おーい、起きてくれよ、おい」 猪瀬が後部座席に体を伸ばし、揺すっても起きない


「なんだこれは・・・。しゅっとした制服を着た3人の酔っ払いとはどういうことなんだ」

「1人はよく見ると東洋人のようだ。2人は間違いなく白人だ」

「俺の車の中でこんなでかい図体の奴らに盛大に吐かれても困るんだよ。ここ10年来、最大の地獄絵図になるよ」

「この近くだったら、牧之原の交番のお巡りさんに頼んでくるしかないな」

車は牧之原派出所を目指した

「なんでおっさん3人と渡辺と俺でドライブなんだよ・・・。5人でむさ苦しいは、ぎゅうぎゅうだわ、歯周病くせーわ、どんだけ男ばっかりなんだよ・・・女だって半分はいるはずなんだぞ。いい加減にしろ俺の運命」

「宿命なんだろう」

 

 牧之原の交番はお巡りさんが不在だった。「しょうがない、勝手に置いとくか」

「でかい図体だから大変だ、2人がかりで担ぐしかないよね」


「俺らが頭痛に打ちのめされているときに乗り込んだきたのか、この酔っ払い達は」

「渡辺、お前乗り込んできたの見えたか?俺達にそんな隙あったかな・・・」

しばし思案した

「きっと2人で気絶していたんじゃないか。その間にか。こんな季節外れのハロウィンの制服衣装なんか着やがって、呑気な・・・3人で "ジェットストリームアタック" とか言って楽しんでいたのかな」

渡辺は外にまわりドアは開け、ロシア人格闘家に似た白人の首筋を触った

「体は冷たいけど生きてはいるね。ジャスト飲み過ぎだ」

猪瀬も逆側の後部座席ドアを開けた

「足元の靴も本格的だよ。これはジオン軍でなくて、リアル軍人コスプレかな」首をかしげた

「酔いつぶれるのには早すぎる時間帯なのが厄介だ。ラリってるとしたら俺たちに火の粉が降りかかるかも知れん、さっさと立ち去ろう、俺達はこのところ、刑法抵触ぎりぎりじゃないか」


 交番の中の床まで3人の男を運び込んだ。

「世話かけやがって」おとなしい猪瀬でさえ悪態をつく


 渡辺は受付机の上にあるマジックペンとボールペンの入ったペンケースが目についた

「その辺にあるの報告の用紙にこの状況のことを書いてやろうか。・・・どうやって説明する・・・無理だな。それじゃあ、こいつらの顔にヒゲでも書いといてあげよう」

「どんな方向転換だよ」

渡辺はマジックペンを手に取り、仕事に取り掛かる

「こっちの1人はフレディーマーキュリーで決まりだ。素材が俺にそうアプローチしてくる。ほーら仕上がっただろ。そっちはそうだな、マリオでいいんじゃないか、異存はないだろう。・・・・・・ほーらよく描けた。ピーチ姫みたいによく寝ているけれど、もう立派なマリオだ。もう1人はそうだな、このマジックじゃぁ三国志の関羽とか無理だけど諸葛孔明にはなるんじゃないか。ほら、そっくりになっただろ」


渡辺の一仕事が終わった


「これで交番のお巡りさんも仕事の疲れが少し取れるよ。俺のイカシタ心遣いだ」


猪瀬は呆れた

―――イカレタ心遣いだろ。ほんとにやることが子供。いや子供以下。子供の方がもうちょっとしっかりしている

 渡辺は度々、猪瀬の理解を超える


――――――――――――――――――――


翌日、身元不明の外国人3人が東海地方の交番内で大乱闘というニュースがひっそりと報道された。

3面記事扱いだった


 巡回より交番に帰った巡査が、交番の中で外国人3人が乱闘しているのを確認した。自称ロシア人の男性が、所持品から判断するに中国人らしき男性とアメリカ人らしき男性を殴り倒し、最終的に巡査と応援の巡査部長に取り押さえられて逮捕されていた

この時、巡査は全治3週間のけがを負った


――――――――――――――――――――


 宇宙の暗さよりも、また格別に暗い場所。

本物の山田教授、山梨室長と川中はダークマターの空間に閉じ込められていた

彼らは浮遊していた

別次元で、ただ寿命まで存在するだけの人間になっていた

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