16話「包み込む豪雨」
「ちょっと! ずるいって!」
すぐにでも雨が降りそうな空模様。
「どうしたの?」
「二手に別れてきたんだけど!」
こんなに走るのなんて久しぶりだったし、絶対汗臭くなってるし、ほんともう無理。最悪。
あのスーツ男とちびっ子、絶対許さない。
「
さっき本殿でちびっ子の姿も見たから、今は2本の赤いギザギザが見える。
それが分かれ道で別々の道に進んでった。
「ねぇ
「誰って、
「なら
あーたしかに。
こういうところ、敵にしたくないよね。
来た方角に数えきれないほどの所有物線が出てるから、たぶんそっちが
進む方向に一本伸びてるのが、アカシックレコードってことになるはずだ。
「なら右!」
「ちょっといいかしら?」
私はもう右に曲がってたのに、
「
「そ、そのはず」
「相手の目的がその子にアカシックレコードを届ける事なら、先回りできないかしら?」
もしかして友達の繋がりから辿るつもり?
「わりときびしめじゃない? 友達の繋がりって普通たくさんあるし、どれが
グサッ、ってどこからともなく音が聞こえた。
「……大丈夫。私、みんなと
え? まじ? それ。
「えーっと……なんかごめん」
「……ぃぃょ、もぅ」
不貞腐れちゃった。ああ見えて意外と繊細なんだよね。
「ひ、一つ聞きたいのだけれど、
「うん。私から出る繋がりは私が直接会わないとだけど、他人の線はその人がちゃんと相手を知ってれば大丈夫! 向こうが
おかげでいつも、世界は線で一杯。最初は困ったけど今はもう、ぜんっぜん気にならない。
「それで
改めて
普段どの線が何本出てるなんて、あんま気にしないから気づかなかったけど、いろんな線が少ないな。
「友達線、ほんとに6本しか出てないんだ……」
「……やめて、それ以上触れないで」
なんか、意外だよね。
普段は普通に喋ってるし、リーダーとか男子にも慣れてる感じするのに、何で友達少ないんだろ。
まぁそれはそれとして、私たち以外の6本目は、っと。
「あ! あっち……あっちは確か本殿じゃない?」
「本殿? 間違いない?」
進んで来た道とは真逆だけど、間違いないよ。
「間違いない、本殿側に伸びてる友達線3本のうち、2本は私と
どういうつもりでここまで連れてきたのかわからないけど、
「そ、なら行ってちょうだい」
今日知った新事実、
「待って、
どこにって思ったけど、本殿にか。
「ええ、相手にこちらの行動を読まれたくないでしょ? 私は男の方を追うから、
そっか。みんなで
結局、アカシックレコードが
「りょーかい! アカシックレコードと、ついでに慰謝料も請求してくる!」
「待って、
「問題ないわ、声が聞こえなくても世界は言葉。息を切らして吐く吐息が、届かなくとも見えているもの。見失わないわ」
その言葉のあと、「それじゃあ」って
私もすぐ行くべきなんだろうけど、少し迷っていた。
「ねぇ、
声が出たのは、結局は心配が勝ったから。
だって最近の
「ん? なに?」
なんてことなさそうな顔。
なんて言おう。
こういうの、あんまり柄じゃないんだけどなぁ。
「正直今起こってること、私よくわかってないんだよね……」
でも、
「初めて会った日、
頭は
———だから、私にできるのは、ほんのこれくらい。
「……私、
口では言わないけど、見れば誰だってわかるくらい、責任を感じてるようだった。
でも
よくわかんないまま連れてこられたのに、冷静で、むしろダメダメだった私の背中を押してくれた。
「
それは今よりずっと、綺麗に見えるはずだから。
「———
親指を立てた私に、
「うん!」
なんて思ったけれど、私と
「じゃあ、行ってくる」
「うん」
本格的に雨が降り出したのは、二人と分かれてすぐだった。
私が追いかけていた赤い線は、右に曲がって早々に足を止めた。
「あーれぇ? もう一人になってる。もしかして気がついちゃった?」
私も、姿を現したちびっ子も、雨に打たれ濡れていた。
その子が言う、気が付いたって意味。私にはそれがわからない。
「……なんのこと?」
「ふーん。シラを切るつもりなら、それはそれで別にいいけど」
低身長に喋り方。それと子供っぽいツインテール。
「でも残念。ここまで来てる時点でもう、私の役目は終了、お疲れ様って感じ」
「は? 勝手に終わんな、ウチらまだ盗まれたもの返してもらってないんだけど」
雨に濡れてるのに、全然嫌そうな顔してないし。
むしろちょっと嬉しそうなのが、それっぽい。
「やっぱ気付いてるんじゃん。いいよ、返したげる、もともと何に使うかわんないし」
スウェットのポケットに手を入れて、何かを探し始めてる。
「返してって言って返すなら最初から奪うなし!」
こんなにずぶ濡れになってまで追いかけたのに!
てか、あの
そう思った時だった。
「はい」
雑に投げながら、「別にこれ、私が盗んだわけじゃないし」だって。
飛んできたそれは、片手でキャッチできた。
「なにこれ?」
「ピックって言うんだっけ?
どうせ吐くなら、もう少しマシな嘘を吐け。
なんで
これ、
え? なんで?
確か
いや、そんなことよりアカシックレコードは!?
「ちょ待って! アカシックレコードは!?」
「あー。たしかに
「は?」
「いやだから、今日はイベントだよ? 天の声の巫女なんてそこらじゅうにいるでしょ。アンタたちが来る少し前、あの本を
え、じゃあスーツ男とこのちびっ子は、私たちを本殿から遠ざけようとしてたってこと?
最初からわかってたとでもいうの!?
私達が、
「嘘……」
ここまでの時間を考えればもう、アカシックレコードは
未来が見える。
本当にそうなんだ。
「
雨が降りしきっていた。視界を白く濁すくらい激しく。
その子は本殿に向けて歩き出した。
何か呟いてたけど、それも雨音がかき消した。
手の甲を振るその背中を、眺めることしかできなかった。
ごめん、
なんていうかもう、立っていられなかった。
驚愕で。悲しみで。
本殿に辿り着いた時、
それを思うだけでもう、私は———
本当に、ごめんね。
手遅れに嘆く何もかもを洗い流すかような、そんな雨の激しさだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます