09話

「啓ー」

「ん? え、どうしたの?」

「最近は確かに啓の言う通り、付き合いが悪かったからさ」


 猛の手はやっぱり好きだ、これぐらい大きければ千織に対して有効的な行為をできるというのに残念ながら頼りがいのない手だった。


「お前らが羨ましいぜ、結局俺らの関係は前進できてねえんだよ」

「そんなことはないでしょ、いまだってちらちら猛のことを見ているよ?」

「お前のことを気にしているんじゃねえか?」

「ないよ、千織もいないんだしね」


 不安になってしまうと思ってもいないことを言いたくなってしまうのかもね、僕の場合は全部事実だったから問題にはならなかったけど彼の場合だとこうなるのか。


「猛君、今週の土曜日ってなにか予定とかあったりするかしら?」

「いや、部活とかにも入っていないから特にないな」


 部活に入っていないことなんて少しでも関わっていれば分かる、だからなにも予定がないなら「いいぞ」でいいのに猛ときたら……。


「それなら付き合ってちょうだい、あなたに服を選んでもらいたいのよ」

「千織とか同性に――ぶはっ、い、いきなりなにするんだよっ」


 なにをするんだよじゃないけどなにをしているんだよと言いたいのはこちらだ。

 前進できてないとか言っていたものの、その原因を作っているのは彼自身だ。

 直接誘ってきているのだから千織がどうこうとか関係ない、逃げたところで前には進めないぞ。


「駄目だよ猛、そのままじゃよくない」

「普通に言葉で止めろよ……」

「仕返しをしているとかじゃないよ」


 とはいえ、ここまでやれば猛なら分かるだろうから杉野さんに謝罪をして離れた。

 猛ならきっと上手くやる、ここまでやっても駄目だということなら千織に協力をしてもらうしかない。


「他の子の心配をしている余裕があるんですね」

「だって僕らは千織が優しいおかげで関係が変わっているからね」

「でも、あれは逆効果だと思う、少なくとも志乃舞はいい気にならないよ」

「そっか、じゃあ今回だけにしておくよ」


 だけど別に調子に乗っているわけじゃないんだ。

 いつもお世話になっていたのになにも返せていなかったのが気になっていた、だからこそああいうことでなんとかしたかったというだけのことだ。


「うん、それがいいよ、それに啓が考えなければいけないのは次のデートでぼくをどこに連れて行くか、でしょ?」

「水族館とかいいかもね」

「あ、お金が結構かかりそうなところはなるべくなしでお願いします」

「はは、分かったよ」


 どうか上手くいきますように。

 猛が調子に乗れるような結果が一番だった。

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