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02話

「猛、暇なら外に遊びに行かね？」

「あー悪い、啓の相手をしないといけないから無理だ」

　もちろん僕から頼んでいるわけじゃなくて彼が勝手に言っているだけだ、大丈夫だと言っても言うことを聞いてくれないのは彼も同じだった。

　彼もと言ったのは最近知り合ったあの子が影響している、いくら大丈夫だと言っても過保護な存在のようで中々に疲れる生活となっている。

「小宮だってそこまで寂しがり屋というわけじゃないだろ、なあ行こうぜ？」

「今日はやめておくわ」

「なんだよ付き合いが悪いなあ」

　彼がこちらを見たから精一杯睨んでおいた、可愛らしい女の子のためならいいけど同性のために時間を無駄にするのはもったいない。

　確かにぽんこつ寄りだけど高校生として問題はないレベルだ、だから自分のしたいことを優先してほしかった。

「それより千織は？」

「今日はまだ来ていないよ、杉野さんも相変わらずだね」

　まあ、そもそも彼女の場合はあの子に呼ばれただけでしかなかったからこの結果は当然だと言える、友達に言われたからその相手と仲良くしようとはならないだろう。

　そういうのもあってたまに来たときだけでもやめた方がいいよと、話を合わせてあげるから読書とか勉強をした方がいいと言わせてもらっていた。

　あ、つまり効果が出たということなのだろうか？　確かにと納得できたからこそかもしれない。

「だからやっぱり俺がいてやらないとな、それと放課後になったらなにか食いに行こうぜ」

「お姉さんを連れてきたりするのはやめてね」

「しねえよ、そもそも時間的に無理だ」

　時間的に無理だと言われて安心して移動した先でお姉さんと遭遇、なんてことが多々あったから毎回言う羽目になる。

　全く信じられないというわけじゃないけどことこのことに対しては微妙だった、でも、こうして毎回自分を守るために動いていけば少しずつでもいい方に傾くから問題はない。

「さてと、行くか」

「うん」

　最近はこういうことが多いから今回のこれが終わったらしばらくは行かないようにする、というかそうしておかないと母からちくりと言葉で刺されてしまうからやるしかないんだ。

　基本的には仲良くできているけど怒ると物凄く怖い、家でびくびくとしなくて済むように普段から気を付けておく必要がある。

「ラーメンかがっつり肉か、どっちが」

「猛？」

「千織だ、男子といるぞ」

　そりゃいるだろう、一人としか安定して一緒にいられない僕が珍しいんだ。

　あの子にはちゃんと女の子の友達もいる、少しもしない内に誰かとお付き合いをしていた、なんて展開になりそうだった。

　というかそうなる可能性が高い、だってあの距離が近いというそれは悪く働くこともあるけどいい方に働くこともあるから。

「二人でなにをしているの？」

「しー、千織に気づかれるだろ」

「千織に気づかれたってなにも問題ないわよ、ほら行くわよ」

　いや、案外こっちが先に変わる可能性もあるか。

　というのも彼と彼女は二年生になってこのクラスになったときから毎日会話をする仲だった、読書か勉強かというところに猛が加わっているのか彼女の方から何回も話しかけていたぐらいだ。

　鈍感なところもあるから彼が変わるよりも先に女の子側の彼女が変わりそうかな。

「じゃあまたね」

　あれ、先に気づいたのか僕らが完全に追いつく前に別れてしまった。

「こそこそ付いてきていたのは分かっていたよ」

「こそこそしていたから私が連れてきたのよ」

「あ、そうなの？　なんか恥ずかしい発言だったね」

「結局大本のところは変わっていないから大丈夫よ、それと今日はこのままあなたのお家に行くわ」

「分かった」

　こっちか、誰が相手でも見ている分には楽しめるな。

　唯一の友達である猛を取られて悔しいなんてこともないし、見ている分にはフラットでいられるから自由に積極的やってほしかった。

　こっちに遠慮なんかは最初からしていないだろうけどそういうのもいらない、自分の気持ちに正直になるべきなんだ。

「俺らはいまから飯を食いに行こうと思っていたんだが」

「それなら食べ終わった後に寄ってちょうだい」

「ぼくも行っていい？」

「別にいいが杉野が困るだろ」

　個人的にはあまり変わりようがない僕らだけで一緒にいてももったいない、でも、お金がかかるから参加してよとも言いづらい。

　二人のどちらかがそれなら杉野さんも云々と言ってくれることを期待していたんだけどどうにもそのようにはならなさそうだ。

「どうしても外で食べたい気分なの？」

　そう言う彼女はどうしても千織君の家で過ごしたいみたいで諦めていなかった。

　積極的に動いてほしいと考えた僕だけどなんかここまでくると一緒にいるのが申し訳なくなってくるというものだ。

　でも、彼の誘いを受け入れてこうして出てきているわけだからやっぱり帰るよと動くことはできないのがなんとも……。

「いや、行こうと思っただけで絶対にというわけじゃないぞ」

「それなら千織のお家に行きましょう、私が作ってあげるわ」

「そうか、ならそうするか」

「うん、猛がいいならそうしよう」

　いや待て、実はもうお付き合いをしているんじゃないかと興奮していた。

　だって家に上がることが当たり前かのような態度だし、その千織君はなにも言わずに彼女を見ているだけだ。

　他の男の子と話しているところを見てあの内側は複雑な状態になっている可能性が高い、お喋り好きな彼が黙ったままなのはおかしいんだ。

　それぐらいは短期間しか関われていなくても分かる、分かった気になるなと言われてしまうだろうから直接口に出したりはしないけどね。

「なんか千住君と啓って共通点がないよね」

「猛の友達からよく一緒にいられているなって言われたことがあるよ」

「千住君が優しいだけ的なことを言っていたけど、本当にそうなのかもね」

「そうだよ、そうでもなければここまで関係が続いていないよ」

　そういうところが嫌になって猛に興味を持ってくれても構わない、寧ろその方が僕的にはありがたかった。

　強がりでもなんでもなく仮に一人になったとしてもだ。

「そういうことを言わないの、本当に本当のところは分からないでしょ？」

「そうだけど……」

「だからもっと自信を持って行動できるようにならないとね――でも、その前に志乃舞が作った美味しいご飯を食べよう」

　そういえば当たり前のように付いてきてしまっているけどいいのだろうか？　……いまから帰るのも違うから次からは気を付けることにしたのだった。

「き、来たよ」

「よく来てくれたっ。さあ、なんでぼくが呼んだのかはわざわざ説明をしなくても分かるよね？」

　ではなく呼んだならちゃんと一階にいてほしいものだった、お母さんが出て玄関のところで慌てる羽目になっちゃったじゃないかと文句を言いたくなる。

　猛と同じようにはできないんだと教えたのにまるで分かってくれていない。

「うん、沢山荷物があって片づけたいということは分かるよ」

「そう！　片づけられたら出かけられるからお願い！」

「出かけるって誰と？」

　猛か杉野さんか他の誰かか、気になる。

　やっぱりこういうときに我慢をできない人間だということがよく分かった、だから大して仲のよくない彼に対してだって気になることがあれば聞いている。

「はぁ、ここにいるのはぼくと啓だけなのに他の子と出かけるわけがないでしょ。そんなに酷い人間じゃないよ」

「そうなんだ、どこに行きたいの？」

　この前は結局飲食店に行かなかったから少しだけ余裕がある、まあ、貯めておけよという話だけど使うためにあるはずだからたまにはいいだろう。

　日常生活ではそれなりに我慢をすることがあるから多少は発散をさせておかなければならない。

「お買い物かな、ちょっと服が欲しくてね」

「服か、自分のじゃないから僕も真剣に探すよ」

「緩くでいいよ、それにその前にまずこれを片づけないといけないからね」

　それならささっと終わらせてしまおう。

　自分の部屋の掃除ではないから途中で脱線したりすることもなかったし、彼も黙って頑張っていたから割とすぐに終わりを迎えた。

　ただ、頑張っていた反動なのかベッドに寝転んで黙ってしまったから気になる、こうなってくると行かなくていいのと聞くのも違う気がするからだ。

　だから気まずさから違うところを見て過ごしていた自分、でも、すぐに限界がきて結局聞いてしまった。

「って、寝ているのか……」

　それならと布団を掛けて部屋をあとにする、一階でゆっくりしていたお母さんに挨拶をしてから家を出た。

「いま千織のお家から出てこなかった？」

「む、向こうから歩いてきただけだよ、杉野さんはいまからどこかに行くところ？」

　出てすぐのところで話しかけられて心臓が跳ねた、とはいえ無視もできないからなんとか返した形となる。

　彼の家の付近でこうして遭遇するということはやっぱりそういうことだよな、聞いておきながらって話ではあるけどそのようにしか見えない。

　猛が彼女のことを好きになったりしなければいいけどな、好きな子が被っていなければ自由にやってくれればいいけど争っているところを見たくはなかった。

「千織のお家に行って勉強をしようと思ったの」

「あ……なんでもない」

「言いたいことがあるならちゃんと言っておきなさい」

「い、いまは寝ているから……」

「そう、それならあなたのお家で――なんだ、起きているじゃない」

　にやにやとやらしい笑みを浮かべていたから一瞬作戦かと身構えた自分、でも、そんなことをする意味がないからただ起きて出てきただけということにしておいた。

　というか、彼女が連絡したからだろうから勘違いはできないというやつだった。

「声もかけずに帰ろうとするなんて酷いじゃないか」

「知らない場所で一人でじっとしているのは無理だったんだよ……」

「まあいいや、もう一回上がってよ」

　結局こうして上がらせてもらうなら帰るなよという話だった。

　情けないところがかなり出ていて端の方で小さくなるしかなかった。

「またあの男子といるな、同性とか関係なく好きなのかもな」

「お付き合いをしていることが分かってもからかったりしないようにね」

「そんなことしねえよ、あいつは可愛いと言ってくれるなら誰でもいいんだろ」

「ほらもう出ているよ、そんなことはないよ」

　僕でもあるまいしもっとしっかり考えているはずだ、そのうえで一緒にいることで好きになれるかどうかを見ているだけだ。

　ただなんとなく飽きたらどこかに行ってしまいそうな雰囲気がある、これは僕がマイナス気味に考えることが多いからなのかな。

「一ヶ月後ぐらいにお前が負けているところが見える見える」

「まあ、一緒にいればありえないことじゃないよね」

「じゃあ十年以上一緒にいる俺は？」

「猛はないかな、一緒にいて安心したい」

「なんだよそれ」

　なんだよそれと言われても本当にそうなんだから仕方がない。

　ただ言われた側としては気になるのかそのまま黙ってしまったから珍しく家に着くまで会話がなかった。

　今日は杉野さん達もいないから頼ることもできない、彼はこちらを見ることもなく「じゃあな」と言って中に入った。

「ただいま」

　猛が付き合ってくれない日は分かりやすく暇となる、そしてベッドなんかに寝転んでいてもすっきりしないのが常のことだった。

「もしもし？」

「啓いま暇？」

「うん、いま帰ってきたところだよ」

「じゃあいまから行くね」

　切られた後についついスマホの画面を見つめてしまった、でも、来てくれるということなら退屈じゃなくなるからありがたいと決めてスマホを置く。

「やあ」

「あの男の子とはよかったの？　一緒に遊べばいいのに」

　興味を持ったということをこっちに言ったからって行かなければならないなんてことはないんだ、あ、まあ先程のそれとは別でいざ実際にこうして誰かが自分を優先してくれると気になってしまうというやつだった。

　だって本当に一緒に過ごしたい子といてほしいでしょ？　それに心配だからとかそういう感情では近づいてほしくないという無駄なプライドがあるんだ。

「あ、またこそこそと見ていたなー？」

「違うよ、帰るタイミングが一緒だからだよ」

「じゃあ余計なことを言わないの、千住君や君が考えているようなこともないよ」

「はは、そっちこそこそこそ聞いているじゃん」

「分かるんだよ、世の中には同性と友達として仲良くしているだけでも色々と自由に言ってくる人もいるからね」

　でもこれって逆に言えば僕もそういう人間だと思われているということで悔しかった、けど言葉で違うと訴えたところでなにかが変わるわけじゃないだろうからこの点についてはなにも言わないようにした。

「そ、それでいま来た理由は？」

「特にはないかな、一つ挙げるとすれば暇だったからだよ」

「奇遇だね、僕も暇だったんだ」

「じゃあ暇者同士、ゆっくりしようか」

　暇だからか、まあそうだよな、そういう理由じゃなければ来たりはしないか。

　猛みたいに昔から一緒にいるわけでも数か月前に出会ったというわけでもない――いや待て、そもそも現段階で暇であっても来てくれているのがすごいのか。

「ちょっと疲れたからベッドで寝てもいい？」

「えぇ」

「まあまあ、ちょっと借りるね」

　呼んでおきながら寝てしまう子なんだからこうなってしまうことは容易に想像ができたはずなのになにを驚いているのかという話だ。

　ただ、この前と違って自分の部屋だから気まずいなんてことはない、本棚から適当に本を取って読み始める。

「ねえ啓、啓は同性同士でも問題ないと思う」

「うん、そういうのは自由――わっ、な、なに？」

「自分が選ばれても？」

「流石にまだ経験もしたことがないのに適当に自分が選ばれたときのことまでは言えないよ」

「じゃあ駄目だね、やっぱり帰るよ」

　一応下まで見送るために付いて行ったけど最後まで顔を見せてくれることは残念ながらなかった。

　だけど後悔はしていない、寧ろあそこで思ってもいないのに適当にうんと答える方が駄目だろう。

　でも、猛にしたことがそのまま返ってきた気がして大人しくしていられなかったから外に出た。

「猛！」

「……別に拗ねて帰ったわけじゃねえぞ」

「それは分かっているよ、だけど相手をしてもらいたくてさ」

　全部分かっている僕からすると本命から振られたから好きだと言ってくれていた相手を頼りにきたみたいだ、当然そんなことはないけど利用していることには変わらないから内で謝罪をしておく。

「それなら歩くか、お互いの家だと特になにもねえからな」

「うん」

　やはり彼の場合は会話がなくても気まずくは感じない、ただ、向こうからしたら違うのか「なにか喋れよ」と言われてしまった。

　だけど会話って無理やり出すものではなく自然に出てきた言葉をぶつけあって続けていくものではないだろうか？　考えて発言をするときもあるけど基本的にはという話だ。

「で？」

「あ、試されたんだけど不合格をくらっちゃってね」

「千織か、お前の下心が丸分かりだったんじゃねえの？」

「違うよ、ただ不合格になっただけ」

　どちらにしろいまのままの僕なら不合格になっていたから下心があろうと関係はないんだ、というか出会ったばかりの子をすぐに好きになったりはしない。

　それは昔から一緒にいる彼は分かっているはずなのにどうしてわざと聞いてきたりするのか、それかもしくは自分でも気づいていないぐらいには露骨ということなのかな……？

「それで俺のところに慌てて来たってか、俺は便利屋かよ」

「や、やっぱり拗ねているよね？」

「だから拗ねてねえって、それ以上言うと絶交だぞ」

「……やっぱり拗ねているじゃん」

　前までなら絶対にそんなことを言わなかった、言ったとしても「それ以上言ったら〇〇奢らせるぞ」程度だった。

　だというのに今回に限ってこんなことを言うことは僕のことを……。

「啓、お前はいつからそんなに頭の悪い人間になったんだ？」

「え？　酷いよ」

「絶交だ、じゃあな」

　お……っと、だけど被害者面はできないか。

　こうなってくるとここにいたところで不審者にしかならないから敢えて家から離れる方向に歩いて行くことにした。

「あら、小宮君じゃない」

「こんばんは」

「ふふ、まだまだそんな時間ではないけどね、こんばんは」

　ただ今日は悪い方に傾くことに決まっているみたいだったから話もそこそこに挨拶をして別れておいた。