第7話
とにかくこの町はよそ者を簡単には受け入れづらい風土なのだ。現に好奇の目が松野さんに注がれている。そんな彼らを横目に彼女は支度を始めていたが。
……まあ、誰が来ようと去ろうと俺には関係のない話だ。
気が付けば、この日の授業は全て終わっていた。リュックの中に教材を突っ込む。
「ねえ、城田直哉くんだよね?」
ふと顔を上げれば話題の人物。もうクラスメイトの名前を覚えたのか。
「うん、そうだけど」
彼女は顔をぱあっと輝かせて言った。
「ねえ、良かったら学校の案内をしてほしいんだけど、だめかな?」
クラスの野郎ども、睨むな。話しかけてきたのは松野さんだ。
「いや、田村に聞いた方がいいと思う。あいつ学級委員だし、色々知っていることも多いよ」
「城田君がいいんだ」
大きな瞳からは、絶対に譲らないという意思が強く感じ取れた。面倒だ。
はあ、とひとつ溜息をついた後、ついて来いと手を振った。視界の端に入った彼女は満面の笑みだった。
「……ここが家庭科室。授業以外は主に料理部が使っていて、夏は文化祭に向けて商品開発してるけど、時折空調が壊れるからきついらしい」
こういう調子で説明を終えたら、もう最終下校時刻まで間もない時間になっていた。
「丁寧にありがとう、城田君」
彼女は頭を下げた。黒い髪がさらっと流れる。
「別に。あと、俺に構わない方がいい」
「え、なんで」
「まあ、学級内で揉め事があってな。この町は小さいから、噂話はすぐに広がる。共同体のパワーバランスを的確に把握し、悪い評判に繋がるような行動はなるべく避ける。松野さんがここで長く暮らすなら、このことを念頭に置いた方がいい」
「松野さん……?」
「君は松野さんだろう」
何を言っているのか分からなくて、彼女の顔をまじまじと見つめる。と、その目が次第に潤み始めた。まて、周りに誰もいない校舎で高校生女子を泣かせたとなると、風体が悪い。
「ちょっと」
「昔はみーちゃんって呼んでくれたじゃん、なおくん」
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