第4話
「皆さん、ゴールデンウイークいかがでしたでしょうか……」
朝早くから全校生徒を集めて、定型文の挨拶をする校長。初夏のじんわりと暑い空気が籠る体育館で生産性のない話を聞き続けるなんてどんな拷問だ。
小窓の外を見る。紫陽花が咲いていた。雨の露が零れ落ちているのを見ると、紫陽花も泣いているように見える。俺だってこんなことに時間を割かれて泣きたい。お前も一緒だな。紫陽花に感情移入してしまうあたり、疲れているのかもしれない。意識を話に戻す。
「……ええ、皆さん、休み明けだからと浮かれる気持ちはわからんでもないですが……」
繰り返されるセリフに、僕はそっとため息をついた。
やっと長話から解放され席に着くと、担任が一人の女子生徒を教室の中に招き入れた。
「今日から2年D組の生徒になる、松野瑞葵さんです」
彼女が教室に足を踏み入れた瞬間、雰囲気が変わるのが見てとれた。肩まで伸ばした艶やかな黒髪は、陶器のように白い肌とのコントラストが絶妙だった。大きな目はやや吊り上がっており、その華奢な体型も加わって、猫を彷彿とさせるような佇まいだった。口元には微笑をたたえている。
「松野さん、一言よろしく」
その言葉に彼女は会釈で応じ、クラスメイトに視線を向けた。
「松野瑞葵です。東京から来ました。よろしくお願いします」
彼女の透き通る声が静まり返った教室で波打つ。
一瞬の沈黙の後、クラスがざわめいた。東京の美少女がこんな辺鄙な村になんの用だ。それはそう思うだろうな。まあ、俺には関係がないことだが。担任は手を叩き教室を静めると
「それじゃあ、みんな仲良くね」
そう言い、彼女の席を案内すると、教室を出ていった。窓際の席では彼女が肩をこわばらせ、小動物のようにきょろきょろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます