第2話

 クリーム色の建物の扉を開け、中に入る。T大学大井キャンパスの正門から最も離れたところにある7号館、その4階にある7409号室。俺が所属する天文学サークルの部室だ。このサークルは全国的に見ても歴史が古く、OBたちは数々の賞を受賞している。設備も充実しており、日本の天文学協会の本部がT大学内にあるというのだから、まさに天文学研究には持ってこいな環境である。なるほど、就活で語るにはぴったりだ。そんな不純な動機で入部したわけだが、それ以外にも理由はある。大学は人生の夏休みだ。だが、することがない休暇など、ただ脳みそが腐るだけだ。暇をつぶすには長すぎる休みを、どう過ごそうか。そこでサークルに目を付けたのである。今のところ、なんだかんだ良い暇つぶしにはなっている。


昼間なのに光が差し込まない廊下を歩く。講義で使われるのは3階までであり、4階にはサークル以外の人間が立ち寄ることはまずない。しかも正門から一番離れている、というアクセスの悪い立地であるため、4階に部室を構える多くは弱小サークルだ。なぜか天文学サークルは、設立当時からこの部屋だった伝統を守るため、という理由からここを希望して、毎回それが通っている。継承した方がいい伝統としなくてもいい伝統がある、と俺は思うのだが、そんな俺の声も虚しく今日も天文学サークルは不健康な立地で研究を続ける。ガタがきている扉を開けようとすると、鍵が閉まっているのか、開かなかった。扉をノックする。

「どうぞ」

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