6話-(2)
2022/9/2 23:08~ 東京都内 河浜駒四郎自宅(ライブ配信中)
「流石にさ、こういう生活してるとあちこちからやっかみとか嫉妬を買う訳でね。俺くらいオープンな悪魔憑き、っつーか執行官もそう居ないからな! 危ないからってコトでお上から手当多く貰ってる身としてはね、使いまくって社会に還元するのも仕事なワケよ。ま、これはいつも言ってることだけど」
:流石っす!
:いやその理屈で1級船舶はおかしい
:趣味の為に努力しすぎだろ
:堂々と『儲かってる』って言われるとなんも反論できなくね?
:溜め込むよりは好感持てる
その『趣味』は幅広く、ライブ配信にリアルタイムでつくコメント通り、一級船舶と船舶関係の無線免許2種を取得している徹底ぶり。自身の稼ぎで買ったと豪語するプレジャーボートは、サイズ感と価格を見たら倹約家なら失神するレベルである。
そんな彼は予定が空く限りは連日のリアルタイム配信や週数度の動画配信を欠かさず、それでいて執行官としても優秀なのだから、天は二物を与えないというのは欺瞞らしい。
「つっても、執行官は全部が全部俺みたいに金が自由になる立場じゃないからな。地道に投資してる奴、執行官と別に個人事業主や社畜やってる奴、色々よ。どいつもこいつも、堅実すぎるんだよなあ」
:社畜だけはワケわかんねえ。生き急ぐなよ
:税金から収入を得て税金を支払う、もう永久機関よな
:いうていきなり羽振りよくなったら怖いけどな
:プチ贅沢を義務化してくれよ~頼むよ~
「いやあ義務化はダメだよ、全然ダメ。社屋全壊した時に備品とか含めて再建で貯めてた分ごっそりもっていかれた奴が執行官にいるから。大企業も内部留保があるのは開発費と雇用保護の為なワケよ。わかる?」
:社屋全壊wwwww
:社屋全壊は流石に不幸ふぎる
:親の顔より見た内部留保擁護
:もっと親の顔見ろ
流石に冗談だと言いたいところだが、駒四郎は大真面目に事実を語っていた。どこから情報を得たやら、彼は同僚(と勝手に呼んでいる)織絵 真琴の事務所ビルが倒壊し、かなりの出費を強いられたことをしっている。事務所の『中』と関係者の福利厚生には全力を出すが、他にめっきり無頓着な彼にはいい機会だった。ボロビルでちまちまやるよりは、それなり綺麗な貸しテナントの方が人が来るだろう……そんなつまらない話は切り上げ、次の話題を考え始めた時だった。
PP-IN:¥5000 ハマさんはホーンテッド・ワンとは知り合い? 身バレしない範囲で話を聞いてみたい
「……んん? ああ、ケルベロスか。ケルベロスについて、ねえ……」
『ハマさん』呼ばわりは配信ではよくある話なので驚かない。投げ銭を噛ませたのも、優先して読み上げて貰いたいからだろう。登録者数が二桁万人後半の彼だ、それくらい張り込まないとと思ったのだろう。しかし、唐突な話である。
言葉に詰まったのをなんと判断したのか、コメント欄は盛り上がりつつある。
:悪魔の名前分かってんのにトップシークレット扱いだよな、ケルベロス
:でも20年以上前の人だしもうかなり年齢イッてるでしょ
:ハマさんが言うほどじゃないしワンチャンない?
:噂が独り歩きしてるだけで故人とかない?
……それにしたって言いたい放題だ。
河浜がちらりとスマートフォンに目をやると、対策課の担当者(既婚女性)から続けざまにメッセージが飛んできていた。リアルタイムで確認していたのだろう、ご苦労様なことだ、と彼は思った。
『身元が分かる情報は厳禁です』『性別と±10歳くらいの大まかな年齢程度はギリギリ許可が下りています』『存命であり、執行官を続けていることは特段秘密ではありません』『親類縁者の安全が確保できない執行官は一律情報制限があることを明言してください、彼がトップシークレット扱いなわけではありません』『個人特定できない範囲でなら、お二人の関係についての言及は目をつぶります』……短時間でよくもこの分量を送ったものだ。
「あー……その、なんだ。あんまり言いたい放題言ってやるなよ。ケルベロスは俺より年下なんだぜ? 法整備も世間的に認められもしてねえ時に、悪魔に憑かれたんだよあいつ」
:は?
:は?
:23年前くらいで、ハマさんより若い。当時未成年……ってコト!?
:¥10000 興奮してきた
:23年前のショタに興奮する変態がここにいます
:でもじゃあ10代かそこらでサキュバス族憑依者の権利拡大に声を上げt おねショ〇では?
:サキュケルきたなこれ
「おいおい、ナマモノで身元不明の奴を『右側』においちゃいかんだろ。あいつだってその頃からいきなり悪魔解放同盟のバカ共に巻き込まれたり、悪魔憑き絡みで表向きで身分隠したりしてたんだし。今時、サキュバス族の連中が色ボケだなんて風評は流行らんぜ?」
:それはそう
:未成年だから学校とか大変そう。同情しちゃう
:そりゃ自叙伝とかドキュメンタリーとか再現ドラマ出るわけないわ。滅茶苦茶売れそうだけど
「再現ドラマにドキュメンタリー……ねえ。あいつ、そういうの滅茶苦茶嫌ってた気がするんだよな。身内も抱えてるし色々複雑な家庭事情もあるしで。社畜じゃねえけど勤め人だしな。この間あった時もエラく嫌われててな……」
河浜の口から語られる『ケルベロス』像は、いままでとりわけ貴重品として隠されてきた悪魔憑きについての新しい話が出てきたことで、大いに盛り上がりを見せていた。事実上の初出情報が余りに多かったことから、様々な情報筋で話題となった。
なお、この盛り上がりにケルベロスこと織絵 真琴が気付くまでには数日ほど要したことは語るまでもないだろう。
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