1話 猫又探しと魔猫飼いの死のこと(2022/4/9)
(1)
どころか、人でも悪魔でもない、けれど日本人にとっては悪魔よりも身近な存在が表舞台に現れてしまったことで色々と面倒事が増えた。
織絵個人探偵事務所はただでさえ仕事不足の日々ながら、舞い込む依頼は厄介ごとと猫探し。DPⅡの折、周囲に迷惑をかけたせいか世紀の変人扱いを受けて余程の難問しか飛び込んでこない。なので外回りに行きたいのだけど、出来ない理由がそこには在った。
「まことおじちゃん、あのね、ミケがまたいなくなっちゃったの。さがしてくれない?」
「そっかあ。
新学期が始まって早々、新品のランドセルを背負った少女、二条 綺羅々ちゃん(6)が事務所の戸を叩いたのである。因みに、この子は事務所の近所住まいで、『ミケ』絡みで何度も依頼に来ている。最初に来た時にその泣き顔に
そんな悩みも知らないかの如く彼女はマシンガントークに勤しむし、外では『世紀の大博覧会&ペットオークション!』などと不謹慎感のある街宣車が大通りを歩く。ご苦労なことである。
「でも、おかあさんやミケよりとしうえだし。おかあさんのおにいちゃんはおじちゃんでしょ? おじちゃん、うちのひとじゃないけど」
「お母さんの弟もおじちゃんだからね、その理屈だと。それにミケなら大丈夫でしょ、麗がそのうち連れ帰って来るよ。何せ
肩まである黒髪を振り乱しながら、彼女はいやいやというふうに首を振った。言い分は分かる。天然パーマを余り整えず、散髪も安いとこで済ませていて、欠かさないのは肌周りのケアぐらい。痩せぎすに見える30過ぎの独身男性なんて、綺羅々ちゃんからすればすっかり近所のおじさんなのであった。なお、その飼い猫であるミケは先述のとおり齢27の猫又。日本じゃ珍しくなくなった第三者こと『妖怪』の一体である。彼等の出現というか発生にはDPⅡが浅からぬ関わりを持っているが、どうでもいい話だ。
因みに、探しに向かっているのは
麗にはまだミケの件は連絡していないが、別件で猫探しに行っているのだから多分ひょっこり会って首根っこ捕まえて戻ってくるに違いない。そう思いたい。
「れいちゃんがいるならあんしんだね。ミケはなかよしみたいだから」
仲良し、という単語に少し首をかしげる。麗とミケは猫同士ということになるが、確かグリマルキンは同族嫌悪からかミケを非常に嫌っていたような気がする。居場所が割り出せるのと、すぐ仲良くなれるとでは別問題だと最近知った。
「おじさん、大変! ミケがどっかいった!」
「綺羅々ちゃんからもう聞いたよ。だからお前を外回りにしたんだろ麗」
噂をすれば影が差す。勢いよく扉を開けた麗は、もう食いつきそうな勢いで顔を寄せてきた。近い近い。年相応の女性なりのにおいが
「グリマルキンと一緒に近所の猫たちにくまなく聞いたよ! すっごく煩くて怪しい白バンを見かけるようになったとか! ミケとは別地域の長老猫がいなくなったとか! 街全体で騒ぎになってる!」
「えー!? じゃあミケはゆくえふめい? 10かごにしたいがみつかるネコマタになっちゃうの?!」
「綺羅々ちゃんちょっと物騒だよ、あと言いたいことはわかるけどだいぶきわどいからやめてね。俺が見つけるから」
小学一年生になったばかりの女の子なのに、10日も行方不明になれば大抵死んでいたりするという物騒な話題をよく御存知である。
それはそれとして、麗の話はどこか引っかかる。不審車の情報もだが、話を聞いて回れる程度に猫が残ってるから猫目的ではない、だが長老級が行方知れずと。余り考えたくはないが、法律違反まがいの連中が裏で何かやってる可能性がある。
「もし、ちょっとよろしいでしょうか?」
と、一同揃ってちょっとした混乱に包まれている中、扉の前で困ったように首をかしげる中年女性の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます