第二話
「うあぁぁぁっ!…うぅ」
泣き叫ぶ声が霊安室内に響いた。今回の事件の被害者遺族だ。
被害者は男子大学生。昨日の夜、公園にて縛られた状態で遺体が発見された。刺し傷が数箇所あり、手足は縛られていた。うちら捜一(捜査第一課)は殺人として捜査を進めている。なぜ、捜一が早い段階で捜査に踏み出たのか。それは四年前に起こった未解決の殺人事件に関与している可能性があるからだ。手を縛り、刃物のようなもので身体に数箇所刺し、目立つ外傷は刺し傷以外につけない。四年前の事件とそっくりだ。
捜査本部内は前回の失敗もあってかピリついていた。一人一人が全力で捜査し、夜遅くまで資料に目を通す者までいた。もちろん俺もその一人だ。だが、ヒントとなるものは依然として出てこなかった。
しかしある日、被害者がとあるカルト教団と関わりがあることが判明した。
「
「あぁ、マル害はそのカルト教団かと関わりがあった。だが被害に遭う一年前にはもう関係を絶っていたそうだ」
神光創道教…昔から爆弾やら毒ガスやらさまざまな噂が密かに顔を出していた。今のところ事件は起こしていないのだが、情報を隠そうとしていることからサツに目をつけられている。
そんな教団が被害者と関わっているとは何か裏がありそうだ。
「組対は動きますかね」
「あぁ、長年目をつけてきた連中だ。たとえ手がかりの端切だとしてもすぐに動いてくれるだろう」
班長はそう見通しを立てた。
「上にはもう報告を?」
「あぁ、すでに報告済みだ。もしかするとガサを入れることができるかもな」
それが通ることを願い三週間が経過した今日、ついに捜索、差押えの許可が下りた。
神光創道教のアジトの周りには、黒いワゴンが三台、覆面パトカー五台が囲むようにして駐めてある。ワゴン車三台のうち一台が指令本部だ。
自分らは覆面パトカーにて突入の合図があるまで待機している。
「こちら三号車、異常ありませんどうぞ」
助手席に乗っていた部下が無線でそう答えた。
「長年に渡り目を光らせてきた教団に突入できるとは…組対からすれば歴史的瞬間ですね」
「あぁ、そうだな」
部下が話しかけてきたので適当に返答し、その場をやり過ごす。
フロントガラス越しには仲間のワゴン車と、アジトの裏口が見える。俺は裏口周辺をじっと見張った。異変はなし。無線でそう伝えようとしたその時だった。
『突入中心!中止!』
無線から聞こえたのは中止のあいずだった。一体なにがあったのか…!?無線に手を伸ばそうとした瞬間再び無線が鳴る。
『全員、今すぐ正面入り口へ向かえ!正面入りg——』
無線が途切れた。嫌な予感がし、急いでハンドルを握り、アクセルを踏む。
クソッ!罠だったか…
前に駐まっているワゴン車を抜かし、ハンドルを切る。
すると数人の黒い服を着た男たちが武器を持って指令のワゴン車を襲撃している様子が目に入った。
俺たちはすぐに車を降り、伸縮式特殊警棒を振り伸ばした。
「おい!やめろ!」
まずは一人目、バットを持っている細い男だ。
俺は容赦なく相手の頭に向かって警棒を振り切った。
細い男は膝から崩れ落ち、その場で倒れた。
もう一人はこちらを見るなり角材をフルスイングしてきたので上手くかわし、隙を見計らって手と身体に強打を食らわせた。
男は痛みに悶え動けなくなった。
相棒がもう一人を相手にしている隙に割れている窓から車内を覗いた。
そこには頭から血を流す捜査員と運転手が計で六人いた。
すぐにドア側へ移動したが、ドアを開ける前にガタイのいい男と対峙している部下を手伝った。
鉄パイプを手にしている男はまるで金棒を持つ鬼のように見えた。
一発二発三発殴ってもびくともしない。それどころか振る力が増しているにも思えた。
俺は急所を狙い警棒を振りかざした。
が、見事に避けられ、逆に男の鉄パイプが自分の肩に直撃した。
「…っ!」
クソ…いてぇ…これは確実に骨が折れただろう。
痛みに悶え、地面に片膝をつけていると応援の刑事が駆けつけた。班長たちだ。
するとガタイのいい男は路地裏へと走り出した。
「クソ、逃がすかよ!」
部下が追いかけて行った。
俺も心から怒りが湧き、痛みを忘れ、部下に続き男を追いかけた。
「待て!」
部下は男に向かって叫んだ。
男は角を左に曲がり、そして次は右へ、再び左へと俺らを巻こうとしている。このままでは切り離されてしまう。
「ここまでだ。観念しろ」
部下の声が聞こえた。おそらく行き止まりへたどり着いたのだろう。
だが、相手は相当強い。ここは二対一ではないとあの男には勝てない。
そして、次の角を曲がった時だった。
バァンッ
視界に入った時には脚を抑え、痛みに耐える部下が写った。
男は拳銃を片手に痛みに悶える部下の横を通り逃げようとするが、その目の前には俺が道を阻んでいた。
こちらも急いで拳銃を抜く。男が拳銃を俺に向けようとしたその時だった。
「やめろ…!」
痛み悶えていた部下が男の足を掴んだのだ。男は何度も部下を蹴るが、離れない。
俺はその隙に男に拳銃を向けながら近づいた。
「っ…こっちに来るなぁぁ!」
男は再び俺へと銃口を向ける。すると今度は部下が腰から手錠を出し、男の足に掛けようとした。その瞬間、目眩がした。
まさか…!?目を瞑り、もう一度開けるとそこには腹が円状に穴が開き、血を口から吐き出す男がそこに立ち尽くしていた。
その足元にいる部下は呆然とし、オレの顔を見る。
俺はすぐに状況を理解した。
目眩、腹の穴、そして記憶障害。四年前のあの日、あの事件の塞ぎかかっていた扉の鍵が開かれる。
あの日、あの時対峙したフードの男を殺したのはやはり俺なのか…?
——ああ、俺だ。
× × ×
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