第9話 才能
「ノア、どうしたの?」
街が一望できる高い木のてっぺんで、膝を抱えて泣いているノアの傍へと、アリアが降りて来た。
「アリア先生・・・・」
顔を上げたノアの淡いブルーの目からは、幾筋もの涙が流れ落ちている。
「僕、またダメでした・・・・やっぱり僕、キューピッドに向いてないんです」
「本当に、そうかしら?」
ノアの隣に腰をかけ、アリアはノアの涙をそっと両手で拭う。
「あなたには選択肢が2つあった。彼らをあのまま結び付ける事。それから、今回のように結びつきを阻む事。彼らを結び付ける事くらい、あなたにならば簡単にできたはずよ?でも、あなたは鉛の矢を使ってまで、それを阻んだ。見習いキューピッドの卒業が掛かっているにもかかわらず。それは、何故かしら?」
「それは・・・・」
小さな手をギュッと握りしめ、ノアは小さな声で呟いた。
「今結び付けたとしても、そう遠くない未来に彼らは傷ついて別れる事になる。そんな気がしたから。僕の見習い卒業の為だけに彼らがいずれ傷つくことが分かっていながら結びつけるのは、違うんじゃないかって思ったから」
「それをあなたは、後悔しているの?」
「後悔なんてっ!」
「それでは、何故泣いているの?」
「だって、このままじゃ僕また・・・・サンタ・クロースからせっかくこの弓も貰ったのに」
再び溢れ出したノアの涙が、夜風に流されて砕け散り、暗い夜空を彩る小さな星となる。
そのうちの、4つの星の下で。
ノアと同じように悲し気な顔の人間が4人、暗い夜空を見上げていた。
「ねぇ、ノア。まだ、試験は終わった訳じゃないわよ?」
「でも」
「あなたが選んだターゲットの人間達を、ちゃんとよく見て」
「え?」
「あなたにはまだ、できることがあるのではないかしら?」
そう言うアリアが見ているのは、ノアではなく別の方角。
その、アリアの視線を辿ったノアは。
「あっ・・・・」
南塚剛志。北宮和美。
東海林譲。西川幾与。
ノアが今回の課題のターゲットとした人間達がいた。
そして、ノアにははっきりと見る事ができた。
未来の幸せにつながる、彼らの結びつきを。
「ね?」
フワリと微笑み、アリアはノアの手を取る。
「あなたがキューピッドに向いてないなんて、そんなことは決してないわ。あなたは誰よりも、優しいキューピッドよ。そしてあなたには、キューピッドとしてとても大切な才能がある。キューピッドはね、誰彼構わずに結び付ければいいというものでは、無いのよ?本当に、その人間にとって必要な、幸せになれるご縁を見つけて結びつけてあげなければ。あなたには、間違いなくその才能があるの。私には分かる。だって、私もあなたと同じだから」
「えっ・・・・先生もっ?!」
「そうよ。だから、あなたの悩みも苦しみも、少しは分かるつもりよ」
「先生・・・・」
驚くノアを立ち上がらせると、アリアは力強く言った。
「さぁ、行きましょうノア。キューピッドの務めを果たしに」
「はいっ!」
片手にサンタ・クロースから貰った弓を握りしめ、大きく頷き。
ノアはアリアに手を引かれて、ターゲットの元へと向かった。
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