第7話 見習いキューピッドの決断

「どうしよう・・・・」


 周りの見習いキューピッド達が次々とカップルを成立させて無事見習いを卒業していくのを横目で見ながら、ノアは心が決まらずに迷っていた。

 課題達成の期限までは、今日を入れてもあと8日。

 今日は、クリスマスの前日。12月24日。

 ノアが選んだターゲットの暮らす国では、カップル成立率が格段に高くなる日。

 ひと組目のターゲットはまだ日の高い時間から二人で行動を共にしているし、男性の女性に対する想いはかなり高まっているように見えるため、相手の女性に金の矢を命中させさえすれば、ノアの課題のひとつはクリアとなる。

 そう、分かってはいたものの。

 ノアはどうしても、女性に向けて矢を射ることが躊躇ためらわれた。


「今結びついても、彼らはその後本当に幸せになれる・・・・?」


 悩みながら、ノアはもう一組のターゲットの元へ向かうが、こちらはまだ2人の物理的距離が離れすぎている。

 どうやら夜には接触をするようだが、こちらもこちらで、ノアは金の矢を向けることに迷いを感じていた。


『ただ結びつけるだけではなくて、彼らが心からの幸せを掴み取れるご縁を結ぶの』


 アリアの言葉が、さらにノアの迷いを深める。


「でも僕、これじゃまた見習いから卒業できなくなっちゃう・・・・」


 いつの間にか日も沈んだ寒空の元。

 溜息を吐くノアのクルクルとした栗毛色の巻き毛に、温かい手が乗った。


「ノア」

「はいっ・・・・えっ?!」


 振り返ったノアは、そこに立つ人物の姿に目も口も大きく開いたまま固まった。


「フォッフォッフォッ、驚かせてしまったかのぉ」


 そう優しい声を響かせたのは、ノアが手紙を書いたサンタ・クロースその人。

 真っ赤な衣装を身に着け、豊かな白髪はくはつ白鬚しらひげを蓄えたサンタ・クロースは、よっこらしょ、と膝をついてノアと視線を合わせると、ノアの淡いブルーの目を覗き込む。


「手紙をありがとう、ノア。いつも頑張っているいいコのノアに、わしからのプレゼントじゃよ」


 言いながら、サンタ・クロースがノアに手渡したのは、どこか見覚えのある使い込まれた弓。


「これは、ノアが欲しいと手紙に書いておった、『絶対に当たる弓』じゃ」

「ほんとっ?!」


 弓を受け取り、泣き出しそうだった淡いブルーの目を嬉しそうに細めたノアに、サンタ・クロースは続ける。


「ほんとうじゃ。ただし、ノアが心から当たって欲しいと願うことが必要じゃよ」

「え・・・・?」

「優しいノアにならば、わしの言っておることは、分かるじゃろうがのぅ」


 キョトンとした顔で真っすぐに自分を見つめるノアの淡いブルーの目に、サンタ・クロースは微笑みを返す。

 そして。


「それからのう、ノア。ノアはもう少し欲張りになっても、良いと思うがのう。人間達を結び付けて幸せにするキューピッドが『絶対に当たる弓それ以外は一生要らない』などと寂しい事を言うようでは、本当の幸せを人間達に与えることなど、できないのではないじゃろうかのう」


 再び、よっこらしょ、と言いながら立ち上がると、


 フォッフォッフォッ


 と笑い声を響かせて、サンタ・クロースはトナカイの繋がれたソリに乗り込む。


「あっ・・・・ありがとうございましたっ!」


 遠ざかるソリに向かって慌てて頭を下げるノアの耳に


 がんばるんじゃよー!


 サンタ・クロースの声が聞こえたような気がした。

 サンタ・クロースから貰った弓をじっと見つめ、ノアは小さくひとつ頷く。

 ノアは、心を決めた。

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