第6話 古い友人との再会

 誰もいない、祈りの間。

 ふと人の気配を感じ、振り返ったアリアは、そこに懐かしい顔を見つけ破顔し、駆け寄った。


「クロース・・・・サンタ・クロースっ!」

「おお、アリア。大きくなったのぅ」


 飛びついてきた小さな体をしっかりと受け止めると、サンタ・クロースはヒョイと片腕で抱き上げる。


「それは嫌味かしら?キューピッドが子供の姿から成長しないことは、あなただって知ってるはずでしょ?」

「わしが言ったのは、中身の大きさの事じゃよ、フォッフォッフォッ」


 スネ顔を見せるアリアに、サンタ・クロースは優しい笑顔を向ける。

 それは遠い昔にアリアに向けられた、切なくも懐かしい笑顔を鮮明に思い出させる。

 アリアの記憶の中で、サンタ・クロースはいつしか、先輩キューピッドのクリスの姿へと戻っていた。


 ピョン、とサンタ・クロースの腕から飛び降り、アリアは尋ねた。


「それで、どうしたのかしら?なぜあなたはここへ来たの?」

「それなのじゃが、実は折り入って相談があってのう」


 そう言って、サンタ・クロースは一通の手紙をアリアへと手渡す。


「その手紙を書くように勧めたのは、キミ・・・・じゃな?」

「良く分かったわね」


 アリアが受け取った手紙は、ノアがサンタ・クロースに書くように勧めた手紙。


「昔、悩んでいた私にあなたが勧めてくれたように、私がノアに勧めたの」

「では、このノアが・・・・」

「そう。私の後を引継ぐキューピッド」


 小さく頷き、アリアは長年愛用してきた弓を取り出す。


「だから、これを・・・・あなたからノアに、プレゼンして欲しい」

「・・・・いいじゃろう」


 直後。

 ゆったりとした動作で弓を受け取ろうと手を伸ばしたサンタ・クロースに向かって、アリアは素早く金色に輝く矢を構えた。


「・・・・アリア?」

「クロース・・・・いえ、クリス。私ね、ノアのキューピッド昇格を見届けたら、キューピッドを卒業するの。そうしたら、私はすぐにでもあなたの所へ行きたい。だから・・・・お願い。最後にこの矢を、あなたにたせて。お願い、あなたのハートを、私に頂戴ちょうだい・・・・クリスマスの、プレゼントに」


 矢を構えたアリアは、笑顔を浮かべながら涙を流していた。

 その昔。

 アリアが恋をした先輩キューピッドのクリスは、その能力をアリアへと託すと、キューピッドを卒業してサンタ・クロースとなる道を選んだのだ。

 キューピッドは、使命を終えるまでは持ち場を離れることはできない。

 クリスの選択は、そのままアリアとの別れを意味していた。

 その日からアリアはずっと、待っていたのだ。

 自分の能力を引き継ぐキューピッドが現れることを。

 キューピッドとしての、自らの使命を終える日が来ることを。

 そして。

 いつかクリスと共に過ごせる日がやってくることを。


「やれやれ、仕方のない子じゃのう」


 よっこいしょ、と曲げた腰を伸ばし、サンタ・クロースは優しさに溢れる眼差しを、アリアへと向ける。

 そして。

 アリアの眼の前で、老人から青年へと姿を変えた。


「いいよ。僕のハートのど真ん中にってごらん。まだまだ腕は衰えてはいないでしょ」

「クリス・・・・」

「もっとも、わざわざつ必要なんて、無いんだけどね」

「えっ・・・・」

「僕もね、待ってたんだよ、アリア。この日が来るのを、ずっと」

「ウソ・・・・」

「ほんとだよ」


 アリアの手から、カランと乾いた高い音を立てて、弓と矢が零れ落ちる。

 その、アリアの小さな体を。

 青年クリスはそっと抱きしめた。

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