第4話 2組目のターゲット
「あ、これなんか、
そう呟くと、
青いガラス玉の中に小さな星の砂がいくつも散りばめられた、可愛らしいピアスだ。
「また例の女友達への土産か?」
「うん」
旅の連れである友人の呆れ顔も気にすることなく、譲は事もなげに頷いた。
友人が呆れるのも、無理はなかった。
無計画の気ままな旅はちょうど折り返し地点の3日目ではあったが、どこに立ち寄っても譲は必ず女友達への土産をいの一番に購入していたのだから。
「なぁ、いいかげん認めろよ、彼女だろ?」
「ちがうよ?そんなんじゃないよ、北宮ちゃんは」
譲は、前の彼女とは束縛に耐えきれずに別れていた。だからしばらくは、特定の彼女など作らずに、気ままに過ごしたいと強く思っていた。
彼女のいる楽しさだって、十分に分かってはいるのだ。どこにいたって離れていたって、大切な彼女ことなら、常に心の真ん中にある。
だが。
『想い』と言う名の重たい鎖に縛り付けられる『束縛』を、譲は何よりも苦手としていた。
そんな譲には今、
北宮とは、フラリと立ち寄った居酒屋で知り合った。
温かくて優しい性格で、北宮といると譲は心が穏やかになる気がした。
けれども。
最近の北宮は、好きアピールの圧が少しずつ強くなってきているようにも感じられ、譲は少しだけ、自分が北宮の存在を重いと感じていることに気づき始めていた。
Rrrrr Rrrrr
譲のスマホが鳴り出す。
見れば、発信者は北宮だった。
「譲くん?ねぇ、週末は帰ってくる?」
北宮和美は、ようやく繋がった譲の電話を逃すまいと、口早に質問をする。
本当は、『今どこにいるの?』も聞きたかったところではあるが、譲が束縛を嫌っていることを聞いていたため、止む無く飲み込む。
北宮は、前の彼氏とは寂しさに耐えきれずに別れていた。仕事の忙しい人で、休みも不定期であった彼が自分との時間をなかなか作れないのは仕方ないとは思いつつも、それでも、
自分が癒やし系女子であることを、北宮は自覚していた。
好きになった人とはなるべく多くの時間をともに過ごし、癒やしてあげたいと思っている。
譲は一般的なサラリーマン。
完全週休二日制で、残業もそれ程あるわけではないという。
だから、もしも譲と付き合うことができたなら。
寂しい思いをすることは無いと思っていたのに。
休みのたびに、譲はフラリと旅行にでかけてしまうのだ。かならず、北宮にはお土産を山ほど、買ってきてくれるのだが。
「うん、帰るよ。お土産買ったから、今度渡すね」
「ほんとっ?!いつもありがとう!」
「じゃ、帰ったら連絡するから。またねー」
そんな短い会話だけで、譲はさっさと電話を切ってしまう。
譲とは、気は合っているはずだし、嫌われてもいないと北宮は感じていた。
譲がこんなにあっさりした態度を取るのは、自分がまだ譲に彼女として認めてもらえてないからだと、北宮はそう推測している。
もうすぐ、クリスマスがやってくる。
これは多分、絶好のチャンスだ。
イブには絶対に約束を取り付けて、譲に告白をしよう。
切れたスマホの黒い画面を見つめながら、北宮は寂しさを吐息で吐き出した。
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