第2話 ターゲット・ロックオン

「どうしよう・・・・出遅れちゃった」


 試験の開始日。

 ノアは緊張の余り、支度に手間取ってしまったせいで、人間界に降りるのが遅くなってしまった。

 他の見習いキューピッド達は早くもターゲットを定めているし、この時期は既に見習いを卒業したキューピッド達も活発に活動を始める時期。

 ターゲットとなる人間の争奪戦にまず勝たなければ、試験のスタートラインに立つことさえ叶わない。


「あっ!」


 そこへ、ちょうどタイミングよく遭遇した二組の二人連れの人間。

 他のキューピッドに奪われないようにと、ノアは急いでターゲットをロックオンする。

 ターゲットをロックオンするには、自分の吐息をフッと吹きかけるだけ。そうすることにより、ロックオンされた人間はそのキューピッドだけのターゲットとなり、他のキューピッドには手出しができなくなるのだ。


「あ~あ、可哀想にあの人間たち。ノアのターゲットにされたら、くっつくものもくっつかなくなるよな」


 それは、何年か前にはノアと同じ見習いだったキューピッドだった。

 聞こえよがしの嫌味を吐きながら、先輩キューピッドがすぐ後ろを通り過ぎてゆく。

 通り過ぎざまに、ヒュンと射た金の矢が、とある人間のハートに見事に突き刺さり、そこにあっという間に一組のカップルが成立していた。


「すごい・・・・」


 ノアの呟きを、先輩キューピッドは鼻で笑った。


「これくらい当然だ。お前今まで何してたんだ?いい加減もう、諦めたら?」


 半笑いで遠ざかる先輩キューピッドの後ろ姿を見ながら、ノアは唇を噛み締め、手にした弓を強く握りしめた。


「僕だって、今年こそは・・・・」


 金の弓を矢につがえ、ロックオンしたターゲットに狙いを定める。

 その時。


『よく人間を見て』


 ふいに、アリアの言葉が頭に響き、構えた矢を下ろしてノアはターゲットを観察した。

 一組は男性が女性に対して、もう一組は女性が男性に対して、結ばれたいという気持ちを持っているようだった。

 ならば、キューピッドとしては、一組目であれば女性に、もう一組目は男性に、それぞれ金の矢を放てば良い。

 けれども、ノアは何故だか矢を放つ気にはなれなかった。


『ただ結びつけるだけではなくて、彼らが心からの幸せを掴み取れるご縁を結ぶの』


「この人達を結びつけて、本当にいいのかな・・・・」


 試験の期日まではまだ期間がある。

 ノアは、ターゲットとした人間たちを、暫く観察することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る