第5話: ボクはいよいよ楽しい旅に出る。
次の日。
「リリアナ姫、コリュー様に一体何を吹き込んだのですか?」
ジェントに詰め寄られているリリアナが軽快な口調で答える。
「吹き込む? 私はただコリュー様を元気付けようとお話してただけですよ〜」
「コリュー様が旅に出たいと言い出したのは、その"お話"の後ではないですか!」
「そんなこと言われても知りませんよ」
リリアナはふわぁっと欠伸をするとボクのほうを向いた。
ボクは朝起きてすぐ、ジェントに旅に出ることを伝えた。もちろん、ジェントも一緒に誘ってる。でも、なんだかジェントはボクが旅に出ることを嫌がってるみたい。
「旅に出る目的が、人間達に竜王としての力を見せつけるためなら喜んでお供しますが、なぜ人間達と親睦を深めるためにお供しなければならないのですか!?」
間違えた。ジェントが嫌がってるのは、ボクが人間と仲良くなることみたい。でも、ボクだって理由もなく旅に出るわけじゃないんだよ!
「人間達と仲良くなったら、前みたいに人間に攻められることもなくなるでしょ? それができるならボクは嬉しいんだけど」
「いいえ、その必要はありません。人間に攻められないようにするためには、コリュー様の竜王としての力を見せるのみです。竜王に挑む者には死を。これが最も手っ取り早い方法なのですから」
「むー! それがしたくないから仲良くなるって言ってるじゃん!」
あーもう! 話が同じところを回って全然終わらないよぉ。
「では、コリュー様はどのようにすれば人間共と友好関係を築くことができるとお思いなのでしょうか?」
「それは……」
ボクは言葉に詰まる。
考えてなかった。
そもそも、ボクが出会った人間は、前に攻めてきたあの4匹、しかも数分遊んだだけなんだ。
人間のことを全然知らないボクが、どうやったら人間と仲良くなれるんだろう……?
「コリュー様、何も案がないのであれば大人しくここで過ごしましょう。コリュー様にはまだ教えることがたくさんありますからね」
ジェントがそう言って部屋から出ていく。
「……待ってください!」
そのとき、リリアナがジェントを呼び止めた。
「人間に竜王の威厳を見せるのであれば、尚更旅に出る方が良いと思います!」
「それはどういう意味ですかな?」
ジェントが怪しげな表情を浮かべて振り向いた。
「そのままの意味ですよ。人間達の街に行って、そこにいる人間達と交流するんです」
「リリアナ姫。今までの話を聞いていなかったのですか?」
「聞いてますよ。ジェント侯爵が言うように、人間達を支配したいのであれば、まず私達が人間達を理解しなければなりません」
別に支配したい訳じゃないんだげどなぁ……。
でも、リリアナがこんなことを言い出す理由がボクには分かった。きっと、ジェントが納得できる、ボクが旅に出る理由作りをしてくれてるんだ。
凄いなぁ、リリアナ。ボクにはできないや。ボクはリリアナの気遣いに感謝しながら、2匹の会話を見守る。
「コリュー様は先ほど仰いました。人間達のことを知りたいと。それならば、実際に見に行き、交流するのが一番良いと思うのですが」
「……確かに、一理あるかもしれませんが、うーむ、時期というものが……」
「時期は早いほうが良いですよ。実際、人間達の間では、竜王はもう死んでいる、などといった噂まで流れてますよ」
「な、なんですと!?」
え、リリアナ、そうなの!? それボクも初めて知ったんだけど!
「そうですよ。実際に人間達から聞いて来ました。先代竜王様は700年前から行方不明、コリュー様は今まで一度も人間に姿を表していない……。人間は長い間竜王の姿を見ていないのですから、そう思うのも仕方ないですよ」
「う、うーむ……。まさかそのような事態になっていたとは……」
ジェントは翼を前に組んで考え始めた。
ボクもなにか言おうと思ったけど、その前にリリアナに尻尾で止められた。今はジェントの返事をまったほうが良いみたい。
「……分かりました、行きましょう。しかし、物事には準備というものがございます。出発は早くても明日ということでよろしいですね?」
「うん、ありがとう!」
ボクが返事すると、ジェントはボクの部屋から出て行った。
リリアナのほうを見ると、どこか誇らしげに胸を張っていた。
「リリアナ、ありがとう」
ボクはリリアナに向かって頭を下げる。
これに気づいたリリアナは照れ臭かったのか、そっぽを向いてしまった。可愛いやつめ。
「コリュー様のお役に立てたなら光栄です」
リリアナは尻尾の口だけボクに向けて言った。その仕草も可愛いんだよなぁ……。
とにかく、これでボクは旅に出ることになった。どんな出会いが待っているか楽しみだ!
ふと、リリアナが口を開いた。
「……コリュー様。旅に出られることを大変喜ばしいことと思っていらっしゃるようですが、私から一つ、伝えておきたいことがあります」
……リリアナが敬語を使うときは、すごく真面目な話をするときだ。一体何なんだろう?
「旅というものは、楽しい事ばかりではありません。どうか、お気をつけて」
ボクは、その言葉の意味を完全に勘違いしたまま、旅に出ることになる。
竜王、旅に出る。 カービン @curbine
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。竜王、旅に出る。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます