第3話: 人間の友達を作っちゃダメなの?
「ジェント、何やってるのさ!?」
「それはこちらの言葉です! どうしてさっさと殺してしまわないのですか!?」
「帰ってもらうだけなのになんで殺さないといけないのさ!?」
「人間に情けをかけてはいけません! 竜王の恐ろしさを知らしめるためにも殺す必要があるのですぞ」
私は周辺の魔物達を逃した後、コリュー様の様子を見ていました。しかし、コリュー様は自らを殺そうとしてきた人間共に対して、遊んでいるかのような対応をなされていました。
この世で最強の存在「竜王」。
その竜王に挑むのであれば、その見返りは、死のみである。
……はずなのに、コリュー様にはその自覚が全くありません。これは私の教育不足なのでしょうか……。
「殺すだなんて……、そんなことできるわけないじゃないか……」
未だに挑戦者に対して情けをかけているコリュー様に、私は厳しく指導することにしました。
「コリュー様。貴方はこの世界を統べる竜王。命の一つや二つくらい自らの手で無くすことくらい容易に出来て当然なのです。今はその時ですし、これからも訪れます。今のうちに慣れておいてください」
「……」
私がそう言うとコリュー様は俯いて黙り込んでしまいました。
きっと悩んでおられるのでしょう。私にはわかります。コリュー様は竜王とはいえ、まだ幼い。いくら強いとはいえ、まだ精神的に未熟なお方なのだ。
だからこそ、私が側近として教育をして差し上げなければならないのです。コリュー様が精神的にも、竜王として成長できるように。
「それでは、手始めにその小さな人間から始めましょうか」
私は、先程からコリュー様の尻尾を弄んでいる人間へ翼を向けた。
この人間以外は、皆私が予め動けなくしておきました。逆に、この人間を残してしまうと何をしでかすか分かりません。確実に、ここに来た人間を抹殺するための戦法なのです。
「え……、いやだよ。この子、折角仲良くなれたのに……」
「仲よく!?」
なんと……。コリュー様は本気で人間と友好関係を築こうとしていたというのですか!? あぁ、みっともない。これでは竜王の面子が丸潰れでごさいます。この様子を先代竜王様がご覧になられたらどんな苦言を呈するか……。
「コリュー様。人間というのは知性だけが取り柄の力のない生き物です。さらに、その知性の使い方を間違えています。その人間だって、先程まではコリュー様に刃を向けていたというのに、なぜ仲良くなったと思うのです? その人間に限らず、いつかはコリュー様を殺そうと再び刃を向けてくるでしょう。だから! 今! 殺すのです!!」
「うぅ……」
私が少し声を荒くして諭すと、ようやくコリュー様が動き始めました。人間と向かい合い、睨みつけています。
人間はそんなコリュー様を、まるで友達を見るかのような目で見ている……。まったく、これだから人間というものは恐ろしい。その目の裏には、一体どんな闇が眠っているのか、私でも想像ができません。
「どうしたの?」
その人間が、馴れ馴れしくコリュー様に話しかけたとき、コリュー様は人間に向けて紫色の炎を吹きかけた。
「あっ! きゃあああぁぁ!!!」
その人間は咄嗟の判断で魔法の障壁を張ったようですが、コリュー様の炎は魔力を吸い込み無力化する力も持っています。そんなものは通用しません。
「りゅー、おーさ、……どー、して…………」
コリュー様の炎に焼かれた人間は、跡形も無く消え去りました。
さて、残りの3人もさっさと殺してもらいましょう。
「ああっ……」
その時、突然コリュー様が膝から崩れ落ちてしまった。
「コリュー様!? どうなさいましたか!?」
「ボクの……、友達が……。なんでこんなことしなきゃいけないの……?」
コリュー様は泣いておられました。大きな瞳から涙が溢れ出ていました。
……確かに、先程私が言った通り、コリュー様は精神的に未熟なお方。しかも、誰かの命を操作する行為は、今日が初めてでした。
刺激があまりにも強かったのでしょうか? だとしたら、私は少し厳しくしすぎたのでしょうか?
……いえ、そんなことはないはずです。コリュー様は、いつかは誰かを殺める日が必ず来るのです。それが今日だった。それだけの話です。
しかし、この落ち込みようでは、残りの人間を殺させてしまうと、もう二度と立ち直れなくなるかもしれませんね。性格まで変わってしまう恐れもある……。
「分かりました。コリュー様は先に城にお帰りください。残りの人間は、私が始末しておきます」
「…………」
コリュー様は私の方を見ずに、黙ったままゆっくり城へと歩き始めました。頭は首から落ちそうになるほど項垂れ、翼は萎れた野菜のように元気がなく、尻尾は死体のように地面に引きずられていました。
やはり、先に帰らせておいて正解でしたね。
さてと、この人間達は私が始末しましょうか。
私は風の刃をいくつか作り、人間の首を切り裂いておきました。
それからというもの、コリュー様は自身の部屋から出て来られなくなってしまいました。
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