第3話コナミコマンド
友永有紀子の実家は開業医である。
僕の母親の言い方を借りればいいとこの子である。友永有紀子の父親はとても厳しくてテレビは教育テレビしかみれないし、漫画も読んではいけないという。聖闘士星矢もミスター味っ子も見たことないというから驚きだ。
でもレンズマンは知っていた。
漫画はだめだけど小説なら読んでもいいのだという。
友永有紀子は友人の家でファミコンで遊んでからそれが忘れられなくなったのだと彼女は言った。当然ながら彼女の父親がファミコンなんて買うはずはない。せっかくお金持ちなのに。それに友永有紀子自身も習い事なので忙しく、クラスメイトと遊ぶ時間はかぎられているのだという。
いいとこの子もたいへんだな。
「いいよ、ファミコンしにこいよ」
僕は言う。
それはちょっとかっこつけたかったからかもしれない。とにかく友永有紀子が僕の家でファミコンをすることになった。
突然、クラスメイトでしかも女子をつれてきたことに母親は驚いた。
お客さん用のカンカンに入ったクッキーをだしてくれた。ふだんはおにぎりせんべえやキャベツ太郎なのにこの日は母親はいいとこの子友永有紀子にいいところを見せたかったのかもしれない。
僕たちはリビングでスーパーマリオをして遊んだ。
友永有紀子は実に器用であった。
ブラウン管の画面をみつめてまるでマリオを自分の分身かのように操る。
土管に沈んでいき、なんとワープしたのだ。
「クラスの子がいってたのよね、ここでワープできるのよ」
ゲーム初心者とはとても思えない。
ちいさいマリオなのにクッパの下をかいくぐり、クリアしていく。
「マリオとても面白いわ」
僕も手を握り、友永有紀子の操作するマリオをじっとみつめる。
人がプレイするゲームを見てはじめて面白いと思った。
「友永ゲームうまいな」
僕は心のそこから思った。
「友永名人だな」
そう彼女のゲームの腕前は名人を名乗るに十分だ。高橋名人、毛利名人、そして友永名人だ。
「えへへっ」
友永有紀子は顔を赤くして微笑む。
そして何を思ったのか階段状のブロックの前で何度も亀のノコノコをぶつけだした。
コンコンとノコノコはブロックにあたり、点数があがっていく。
そしてマリオが何度もワンアップしていく。
これって無限ワンアップじゃないか。
まさか友永有紀子は初見で無限ワンアップをするなんて。
「前に吉野君がいってたでしょう。これやってみたかったのよね」
間違いない、友永有紀子はゲームの才能がある。本当にうらやましい。
なんと彼女はスーパーマリオをクリアしてしまった。
「ありがとう、ファミコンとてもおもしろかったわ」
クリア画面を見ながら友永有紀子は言う。
「友永めちゃくちゃゲームうまいな」
僕は感心する。ゲームがうまいのは当時の僕たちにとって一つのステータスだ。
「そうだ、これやるよ」
僕は使わなくなったクッキーのカンカンにあった一枚のシールを彼女に手渡した。
それはビックリマンのヤマト神帝のシールだ。夏場にアイスを食べてビックリマンシールを集めたんだよな。ヤマト神帝は二枚持っていたのでまあいいかな。
スーパーマリオのクリア画面を見せてくれたお礼だ。
「これなに?」
友永有紀子はシールをじっとみつめている。
「ビックリマンだよ。日曜日の朝にテレビでやってたんだ」
ちなみに僕が一番好きなキャラクターは神帝アリババだ。アリババが死んだシーンは泣けたよな。
「とてもかわいいわね、ありがとう吉野君。またゲームしにきてもいい?」
友永有紀子はきく。
「ああ、いいよ」
僕は答える。
それから友永有紀子はときどき僕の家でゲームをすることになった。
冬休みも目前にせまったある日のこと、友永有紀子が一本のカセットを持ってきた。
むちゃくちゃかっこいい戦闘機がデザインされたカセットだ。
クラスメイトの弟から借りてきたという。
「これで遊んでみない?」
そう言いながら友永有紀子はふっとカセットのさすところを吹き、ガチャンとファミコンにセットする。
もう手慣れたものだ。
友永有紀子が持ってきたカセットはグラディウスだ。
「上上下下左右左右BA」
謎の言葉を友永有紀子は言う。
なんだそれは。
そして画面にはすべての装備をそろえた超時空戦闘機ビックパイパーがうつしだされた。
「これ裏技らしいの。私これやってみたかったのよね」
にこにこと微笑み、弾幕のように打ち出される敵の弾丸を友永有紀子は紙一重でよけていく。やはり彼女はゲームの名人だ。
僕もグラディウスをやったがすぐに死んでしまった。でもこのゲームやりがいがあってむちゃくちゃ面白い。
僕たちは時間を忘れてグラディウスに熱中した。
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