第2話ゲームがやりたいの

ファミコンが我が家にやってきてから、僕の生活はゲーム一色になった。

学校にいっても話題はゲームのことばかりだ。ファミコンがあるのとないとではまるでちがう。

ゲームつながりで岸野と友だちになった。彼の家にはファミコンだけでなくディスクシステムやMSXも持っていた。まったくうらやましい限りだ。僕は彼の家でMSXでシュミレーションゲームの三国志をプレイさせてもらった。僕のお気に入りは陸遜だ。ドット絵の陸遜はかっこいいのだ。

それをきっかけに図書館で児童向けの三国志を借りてきた。

それを読んでいると母親は褒めてくれた。

「字の本を読んでるなんてえらいわね」

と母親言う。

僕としてはゲームの知識を深めたいだけだったんだけどね。

僕にとってゲームも漫画も小説もすべて同じだ。楽しむためのコンテンツでそれらに差はほとんどない。

三国志と一緒に借りてきたレンズマンというSF小説にもはまった。あのアニメの表紙がかっこよかったんだ。

僕がレンズマンの小説を読んでいると父親はレンタルビデオショップでなんとアニメ版のレンズマンを借りてきてくれた。

はじめて見るCGに僕は興奮をかくせなかった。そしてレンズマンのキャラクターである看護師のクラリッサに恋をした。二次元の女性への初恋はレンズマンのクラリッサであった。


暦は12月となり、学校に行くのもあともう少しだ。冬休みには祖父母のいる淡路島に行くことになっている。淡路島でゲイラカイトをやりたいな。前に祖父がジャスコで買ってくれたのだ。ぐんぐんと空に上がっていくゲイラカイトはかっこよくて爽快な気分にさせてくれる。

あと、お年玉で何を買おうかな。ファイナルファンタジーかドラゴンクエストか。悩ましいところだ。

岸野は新しいウイザードリィを買うといっていた。あんなダンジョンだけを冒険するゲームの何が面白いのかな。でも彼がノートに描いていたウイザードリィのマップはとてもきれいだった。岸野は絵がうまいんだよな。

彼は高校をでたあと大阪芸大に合格し、プロの漫画家になる。その片鱗がこのときからあったのだ。


僕が冬休みの予定を考えながら帰宅していると突然目の前にクラスの女子があらわれた。

その少女はダッフルコートを着ていた。前髪が額の上で切りそろえられている。目のぱっちりしたかわいらしい少女だ。

「友永か?」

その少女の名前は友永有紀子ともながゆきこだ。たしか図書委員をしていたな。

彼女はうつむきじっと地面を見ている。

なんなんだ、急にあらわれて。

僕は友永有紀子を避けて行こうとする。

するとさっと移動して彼女は僕の前にたちはだかる。

それを三度ほどくりかえす。

いったいなんなんだよ。

「どうしたんだ友永?」

顔を赤くして地面を見ている友永に僕は声をかける。早く家に帰ってジャンプを読みたいのに。僕はこのときぐらいにはじまったジョジョの奇妙な冒険にはまっていた。

波紋の呼吸の真似を岸野とよくして遊んだものだ。


友永はアスファルトと僕の顔を何度も交互に見る。

本当に友永は何をしたいのだ?

「吉野君、ファミコン持っているのよね?」

意をけっして友永は僕にきく。

「ああ持ってるよ」

僕は答える。

「お願いがあるの……」

「なんだよ」

「私ゲームがやりたいの。吉野君の家でファミコンやらせてもらえないかしら」

白い頬を真っ赤にしながら友永有紀子は言った。

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