ファミコンがやって来た日

白鷺雨月

第1話ファミコンが我が家にやって来た

それは昭和から平成にかわろうかというある年の11月の日曜日。

僕はお昼に昨日の残りのカレーを食べていた。いわゆる二日目のカレーだ。

僕の家ではこれが定番だ。

土日の昼間は母親はパートでいないためこのように作り置きされたものを昼食に食べている。あと父親がイズミヤで適当に買ってきた惣菜をサイドメニューにしている。

たいがいコロッケか鶏の唐揚げだ。


僕がテレビで再放送のルパン三世を見ながらカレーを食べていると父親が話かけてくる。

「おい和友、昼飯たべたら和光電気行くぞ」

すでにカレーをたいらげていた父親が言う。

今はなき家電量販店にしてディスカウントショップである和光電気にいこうというのだ。

またすぐばれるのに父親は何か買い物をしようというのだ。

僕の父親は新しいものが好きだ。

ビデオデッキもCDコンポもラジコンも我が家にはそろっている。それらを買う度に母親に怒られているのに性懲りもなくまた何かを買おうとしているのだ。


僕は父親の運転するカローラで和光電気にむかう。僕たちは家電コーナーの一角に置かれたガラスケースにおさめられたものを購入した。

それはファミリーコンピューターであった。通称ファミコン。いろんなゲームを楽しめる魔法の箱だ。

父親はファミコン本体とカセットを二つ購入した。

スーパーマリオとポパイの英語だ。

まさか家でスーパーマリオができる日が来るなんて。友だちの家で何度かプレイしたがあれ以上面白いゲームをこのときの僕は知らなかった。


自宅に帰り父親は四苦八苦しながらファミコンをブラウン管のテレビにつなぐ。

カセットを差し込み、電源をいれる。

ブラウン管にスーパーマリオの画面が写しだされる。あの独特の音楽が流れる。

ゲームなんてたまにニチイの三階にあるおもちゃコーナーにあるドンキーコングか友だちの家で遊ばせてもらうかだ。

それが自分の家でできるなんて。


まず父親がコントローラーを握りゲームをはじめる。案の定最初のクリボーに突撃し瞬殺された。

唖然とする大人の顔をはじめて見た気がする。

僕たちは交代交代でスーパーマリオをプレイする。

僕はファイアーマリオが気に入った。あのファイアーボールを投げて敵を倒していく爽快感はたまらない。

父親もなんだかんだいって操作になれてきたみたいだ。

「マリオって息長いな」

海のステージで泳ぐマリオ見て父は言う。

ああっいわんこっちゃない、ゲッソーに当たって死んでしまった。


ゲームをしているとなんて時間がたつのがはやいのだろうか。

もう夕刻になっていた。

母親が喫茶店のアルバイトからかえってくるころだ。母親は彼女の弟、僕からみたら伯父さんにあたる人物が経営する喫茶店「カトリーヌ」で土日の昼間はアルバイトをしている。

たまにこのカトリーヌで伯父さんのつくるナポリタンを食べるのだが、これがまた絶品だったのだ。

ゲームに興じている僕たちを見てやはり母親は怒りだした。


「ピコピコ聞こえると思ったらまたこんなの買ってきて」

あきれつつ、なおかつ母親は怒りをまったく隠さない。

これ以来母親はすべてのゲームをピコピコと呼ぶ。ファミコンもPCエンジンもメガドライブも母親にとってはすべてピコピコなんだ。そしてすべてのアニメは漫画と呼んでいた。

「いやおまえ、このファミコンはすごいんだよ。ゲームだけじゃなく勉強にも使えるんだ」

父親は言う。

そうかポパイの英語はこの言い訳のためか。

今日はほとんどスーパーマリオをプレイしていただけなのに。

「今日のあんたらの晩ごはんは素うどんね」

母親はそう言い、本当に素うどんだけだった。僕に悪いと思ったのか父親は自転車を飛ばしてイズミヤで天ぷらを買ってきてくれた。

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