第4話ロードス島は捨てられない
お正月は淡路島の祖父母のところで過ごした。帰ったらジャスコでファイナルファンタジーを買おう。あの箱のイラストがかっこよくて好きなんだよな。
岸野の話ではそのイラストを描いている天野喜孝という人は小説の表紙も描いていると言っていた。
本屋さんで探すと吸血鬼ハンターDという小説を見つけた。Dが無口でかっこよかった。友永も吸血鬼ハンターDを知っていた。
「FFの人よね。アルスラーン戦記っていう小説の表紙も描いてるわよ」
友永有紀子は言った。
彼女のすすめで僕はアルスラーン戦記も読んだ。
小説を読んでると母親は字の本を読むなんて偉いわねと褒めてくれる。
僕としては吸血鬼ハンターDもアルスラーン戦記も面白いから読んでるだけなんだけどな。
僕にとってゲームもアニメも漫画も小説も面白ければそれでよかったのだ。小説なんて面白いから読んでるだけでそこからなにかを学ぼうなんて思わない。
大阪にかえり、面倒だけど冬休みの宿題をすませた。何が冬休みの友だよ。こんなのと友だちになった覚えはないよ。
あと数日で冬休みが終わるとある日のことだ。
友永有紀子が紙袋を持って我が家にやって来た。
あれっ様子がおかしい。
そのきれいに切り揃えられた前髪の下の瞳が赤い。
もしかして泣いているのかな。
「あれっ友ちゃんどうしたの?」
母親は礼儀正しい友永有紀子のことをかなりきにいっていた。うちにお嫁にきたらいいのになんて言っていたときもある。
もうやめてくれよ。恥ずかしくてしかたない。でもたしかに友永有紀子は白い肌が特徴的なかわいい女の子だった。
その友永有紀子が目と頬を赤くしている。
「吉野君にこれもらってほしいの。うちにはおいておけなくなったから」
紙袋に入っていたのは数冊の小説であった。
その小説はロードス島戦記であった。僕はこの小説でエルフやドワーフという種族を知った。その種族たちはゲームでもよくみかける。ウイザードリィなんかがそうだ。
ディードリッドってきれいだよな。
僕がその表紙に描かれていたディードリッドに思わず見惚れていると友永有紀子がこの小説を持ってきた理由を話す。
「パパがね、こんな漫画みたいな本読んじゃだめだって」
友永有紀子は鼻をすすりながら言う。
ロードス島戦記は友永有紀子が一番面白いといっていた小説だ。
それにロードス島戦記は漫画じゃなくて小説なのに。うちの母親なら字の本を読んで偉いわねっていう種類なのに。
友永有紀子の父親は家で漫画を読むこともゲームをすることも小説を読むことも許さないなんて。厳しすぎるじゃないか。
なんか腹がたってきたな。
とはいえ僕にはどうすることもできない。
「わかったよ、ロードス島戦記僕がもらうよ」
僕は言い、その小説を本棚に並べる。
「ありがとう、たまに読ませてね」
友永有紀子は言い、泣いていた顔を笑顔にかえた。僕はその笑顔が一生忘れられなくなった。
機嫌をなおした友永有紀子と僕はツインピーをして遊んだ。
「このゲームやりがいがあるわ」
友永名人は敵のミサイルを紙一重でかわしていく。このゲーム協力プレイが面白いんだよな。
すっかり泣き止んでもとのかわいい友永有紀子に戻っていた。去り際にノートをきりとり、それを細長く丸めて友永有紀子は耳にさす。
「ほらディードリッドみたい」
友永有紀子は言う。本当にエルフみたいにきれいだった。
それから短い三学期が終わり、僕たちは中学生になった。友永有紀子は私立の中学に通うことになり、もう彼女とファミコンで遊ぶことはなくなった。ただ僕の部屋には友永有紀子と遊んだ楽しい時間を証明するかのようにロードス島戦記が本棚に並んでいた。
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