第41話 囲まれた要塞
辺境伯軍の先遣隊は正に少数精鋭だった。
人間は俺とローズ、そしてコボルトの氾濫の時にも一緒になった魔物使いしかいない。
人外のメンバーはテトとヴォジャノーイ。紛争をピクニックか何かと勘違いしているらしく、ワイワイと楽しそうだ。
「しっかし、地竜ちゅうたぁほんのこて脚が速かねぇ」
「ミャオミャオミャオ〜」
魔物使いが操る地竜の背に乗り、辺境から帝国との国境へ。馬車なら二十日近くかかるところを、五日で踏破しようとしていた。
「マルスちゃん。国境が近くなってきたけどどうするつもりなの……!? そろそろ帝国軍を全滅させる方法を教えてくれてもいいでしょ……!?」
「ローズさん。何回も説明した通り、今回の目的は帝国軍を追い返すことです。全滅なんてさせたらそれこそ全面戦争に突入ですよ」
「えぇ……」
「えぇ、じゃありません」
地竜を操る魔物使いが振り返り、苦笑いした顔をみせた。「大変だなぁ」というように。
国境の要塞まであと少しだ。ここからの情報は誰も持っていない。自分の目で耳で集めるしかない。そろそろ、覚悟を決める必要がある。
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「マルスちゃん……。これはどういう状況なの……!?」
だだっ広い平原にある岩造りの要塞は透明なドームに覆われ、しんとしていた。そしてそのすぐ側を帝国軍と思われる兵士達が列をなし、王国側に侵入している。
「あや結界術かもしれん」
「結界術?」
発言に振り返ると、地竜の背で偉そうに脚を組んだヴォジャノーイは得意気に話始めた。
「そう。【結界魔術師】んジョブを持つものが張った結界が要塞を覆うちょっごつ見ゆっ。あれだけ大きな結界を張るっ術師が王国におったとはな」
うん? じゃぁ、なんで帝国兵を素通りさせているんだ?
「結界魔術師がいるのは王国側ではなく、帝国側では?」
「王国兵が要塞に閉じ込められているってこと……!? それじゃあ、帝国側は進軍し放題ね……!!」
ローズの言う通りだ。国境から歩いて二十日も掛からないところには王国領の街がある。この地に他の貴族軍がいないのは、そちらの応援に行っているからなのか?
「とりあえず夜を待ちましょう。要塞に行けば何かわかるかもしれません」
「でも……! 結界があるのよ、マルスちゃん……!!」
「結界も魔術ですよね?」
ローズは「あっ、そうね」と声を上げた。
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頼りは夜空に輝く星の光と、弱々しく辺りを照らす要塞の灯りだけだ。
帝国側の進軍は昼を少し過ぎたところで途切れた。今は王国の要塞を見張る小規模なキャンプがあるだけ。結界に対して全幅の信頼を寄せている証拠だ。
要塞から充分離れたところで地竜から降り、俺とローズ、ヴォジャノーイとテトは要塞を目指して静かに進んでいる。
『マルスちゃん……。気付かれないかしら……?』
『気付かれたくなければ黙ってください』
ローズも一応、声を潜めている。流石に命にかかわるところでふざけるつもりはないらしい。
夜の平原は風が強く、足音は掻き消される。都合がいい。このまま何事もなく、要塞まで……。
深夜の頂点を回った頃、俺達は要塞を覆う結界の一端に辿り着いた。
軽く拳で叩いてみると、カツカツと少し高い音がする。簡単に壊せそうな気もするが、実際のところは違うのだろう。少なくとも【剣聖】でも破れない程度には丈夫な筈だ。
『マルスちゃん……。いけそう……?』
ローズの方を向き、唇に指を当てる。
結界に手を当て、スキルの範囲を意識する。ちょうど人が通れるぐらい。よし……いける。
【魔術レンガ作成……!】
音もなく地面に透明なレンガが積み上がる。それを退けると、結界にぽっかりと穴が空いた。
『早く中に入って』
ローズとヴォジャノーイを中に押し込み、自分も中に入って結界レンガを元のように積む。そして──。
【魔術レンガ作成……解除!】
これで大丈夫だろう。レンガは結界に戻り、ピタリと穴は塞がった。
『さぁ、要塞へ急ぎましょう。辺境伯の旗をください』
ローズが取り出した旗を高く掲げ、要塞の見張りに向かって大きく振りながら進む。せっかくここまで来たんだ。すんなり受け入れてくれよな。頼むぞ。
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