第34話 捕獲
オーガはじめ、虚な目をしたモンスターの目撃例は確実に増えていた。最初ヴォジャノーイが言っていた湧水の泉はもちろん、その他の狩場でも遭遇することがしばしばある。
どのモンスターも殺気はないくせに、非常に動きが速い。スケルトンですら機敏に動き、なにより強い。
ただ、不思議なことにマルス領の面々やその他の冒険者に犠牲者はいない。怪我を負わされる程度で、誰も殺されてはいないのだ。
そのことが更に不気味さを感じさせる要因になっていた。
「今回の作戦の目的は虚な目をしたモンスターを倒すことではありません。捕獲して奴等の正体を暴きます」
俺の家には、俺とテトは勿論、ローズにゴルジェイ、ヴォジャノーイが集まっていた。皆がテーブルを囲み、俺の話を聞いている。
「マルスちゃん、捕獲するのは無理じゃない……!? あのモンスターはローズちゃんの爆炎魔術でも傷一つ与えられないのよ……!!」
ローズは例のオーガに遭遇しており、まんまと【ボム】を空振りしている。高火力だが攻撃範囲の狭い爆炎魔術ではあの虚なモンスター達には分が悪い。テトの風の刃も同じ。
唯一、ヴォジャノーイが水魔術を当てていたが、それ以来ヴォジャノーイの姿を見つけると虚なモンスター達はすぐに反転して逃げてしまうようになった。
単純な戦闘から奴等を捕えることは難しい。ならば──。
「ヴォジャノーイの水魔術をレンガ化して罠を作ります。透明なレンガで奴等を欺き、閉じ込めるのです」
「簡単にいうどん、そげん上手きくかな? 奴等は慎重でなかなか賢かど」
テーブルの上に座るヴォジャノーイが異を唱える。
「奴等は早朝から活動します。視界の悪い霧の深い日であれば可能性はあると思います」
「それで、どんな罠を考えているんだ?」
ゴルジェイが腕を組み眉間に皺を寄せながら尋ねた。
「こーいうのはどうでしょう?」
俺は一晩考えた罠について語った。
#
狙い通り、霧の深い朝だった。
湧水の泉から少し離れたところで罠を張り、虚なモンスターの出現を待っていた。木の上ではテトとヴォジャノーイが待機している。この二匹にはモンスターを追い込む役割がある。
霧の一部が色付いた。次第に人型の影が浮かび上がってくる。右手に短槍を持ち、尻尾を左右に振りながら歩くそれは、リザードマンだ。
リザードマンが俺の姿を認めて槍を構えた。俺も短剣を構える。
相変わらず殺気は感じない。虚な目をこちらに向けるばかりだ。しかし──。
ブンッ! と踏み込みと同時に槍が突き出された。十メル以上の距離が一瞬で詰められ、槍が太腿を掠める。
「おらっ!」
一歩踏み込み、袈裟斬り。リザードマンは素早く槍を戻し、柄で受けようとする。しかし、俺の短剣は魔鉄製だ。普段は使い道のない魔力を短剣に流す。
──斬ッ! と真っ二つになる槍。素早くバックステップしてリザードマンは距離を取る。
「ミャオ」と鳴いた気がした。
リザードマンは追撃を読んでいたのか、スッと体を沈めてテトの風の鎌を避ける。続けてヴォジャノーイの水弾からも逃れたリザードマンは慌てる様子もなく、くるりと身を翻した。
よし……。狙い通り。
リザードマンが向かった先にはゴルジェイとローズが待ち構えている。俺は罠の場所に先回りだ。
ローズは【フレア】を放ったようだ。魔の森が一瞬、明るくなる。そして足音。リザードマンが想定通りに罠の方にやってきた。俺は大木の陰に身を潜めたまま、タイミングをはかる。
もの凄い速さでこちらに近づいてくる。そして──。
ドゴンッッ!! とリザードマンは透明な壁にぶつかった。一瞬よろけるが、倒れるには至らない。しかし、それも想定通りだ。俺は地面の透明なレンガに手を触れる。そのレンガはリザードマンの足元にまで伸びている。
【レンガ作成解除!!】
足元の透明なレンガが水魔術に戻り、リザードマンが水塗れになりながら地面の中に消えた。まんまと落とし穴にハマったようだ。
透明な壁を作り、その手前に落とし穴を掘っていたのだ。そして水魔術を固めたレンガで蓋をしていた。レンガ作成解除とともに、リザードマンは落下。そして落とし穴の底には【フレア】から作成したレンガが並べられている。
肉が高温で焼かれる臭いがした。もう、リザードマンが逃げることは出来ないだろう。
俺は落とし穴に近づく。リザードマンは腕の力で穴から這い上がろうとしていた。こんな風になりながら、うめき声一つ上げない。一体どうなっているんだ? 我慢強いなんてもんじゃないぞ。絶対に秘密がある筈。
俺はモンスター捕獲用の強化ロープを取り出し、リザードマンへ──。
トン。
俺の頭から音がした。そして視界が暗く……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます