第32話 賑やかさの裏側
マルス領は随分と賑やかになってきた。
まず、家が四軒に増えた。俺の家、ローズの家、ゴルジェイの家にヴォジャノーイの家だ。
来客も増えた。
一番の要因はゴルジェイの作る武器だ。ゴルジェイはマルス領で武器を作っている。それを目当てにラストランドの商人や冒険者がやって来るのだ。
特に魔花鉱石から作られた魔鉄を鍛えた武器は大人気だ。
魔鉄製の武器は魔力を通すと飛躍的に斬れ味を増すらしい。魔力自体は人間なら誰でも持っているが、魔術系のジョブやスキルを持っていないと、なかなか有効活用するのが難しい。魔鉄製の武器はその課題を簡単にクリアしてしまうのだ。商人がそれを求めて列を成すのも頷ける。
また、それとは別に開拓村から定期的にお偉いさんがやって来るようにもなった。世間話ともお願いとも言いがたい話題を置いていく。流石に第三開拓村ではやり過ぎたので自粛気味だが、農地を広げる為の手伝いは定期的にやっている。
今日は第三開拓村の村長アヒムがマルス領にやって来ていた。
「まだ、帝国からの亡命者が増えているんですか?」
「えぇ。民にとって、帝国の状況がどんどん悪化してますからね」
アヒムの表情は暗い。捨てたとはいえ、帝国での思い出はあるだろう。それに友人はまだ帝国にいるかもしれない。気になるのは仕方ない。
「そんなに亡命者がいたら、帝国は衰退しちゃう気がしますけどねー」
「亡命者を遥かに超える勢いで、奴隷を増やしてますから」
奴隷。嫌な言葉だ。このミスラ王国ではとっくの昔に無くなった制度だが、帝国では当たり前に奴隷がいる。
「戦闘系のジョブを持つ者は徴兵され、帝国の北に広がる獣人の領域を侵攻しています。その遠征には奴隷商も従軍していて、その場で奴隷にされるんです」
なんとも酷い話だ。
「帝国からの獣人の亡命者はほぼ元奴隷ですもんね」
「ええ。故郷が健在ならそちらに戻るんでしょけど、帝国兵にめちゃくちゃにされていることがほとんどでしょう。最後の希望としてミスラ王国に亡命してくるのです。彼等は」
獣人の話を始めてから、アヒムは更に暗くなった気がする。
「獣人の亡命者達は元帝国民にあまりいい感情はありません。だから、開拓村の中でも対立が増えています。村から出て行ってしまう者もいるぐらいに」
「あぁ〜。なるほど。その話が本題でしたか」
「お察しの通りです。もしかしたら魔の森の南側に獣人達が住み始めるかもしれません。その時は、少しだけで良いのでマルスさんの力を……」
「まぁ、気が向いたら……ですね。どんな人達か分かりませんし」
「それで充分です。ありがとうございます」
そう言うとアヒムは立ち上がり、軽く挨拶をして我が家から出て行った。
膝の上で話を聞いていたテトが俺の顔を見上げる。
「人が集まると、色々と問題や心配事が増えて大変だね」
「ミャオミャオミャオ〜」
テトが「お前もな〜」と言ったように聞こえたのは、俺の気のせいだろうか……?
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