第14話 コボルトフラッド

『コボルトが溢れ始めました!!』


【風魔術師】のジョブを持つという伝令の声が、マルス領に届いた。【声送り】というスキルらしい。


「マルス君、始まったようだね」


「そうですね。朝食はとれそうにありませんね」


「不安かい?」


 ボーワダッテ……がカイゼル髭を楽しそうに扱く。


「いえ。この二十日間で準備は整ったので」


 元々、俺の家だった建物は作戦本部となっている。俺や冒険者──ボーワダッテ……も例外ではない──はマルス領の空いているところにテントを張って寝泊まりしている。


 レンガ職人のスキルで冒険者用の家をつくる? まさかそんな無駄なことはしない。ボーワダッテ……と冒険者がマルス領にやって来てからの二十日、俺は全てのリソースをコボルト禍に当ててきた。無駄な時間は一切なかったと言える。


「マルス! 第一防衛ラインに移動だ! 魔物使いの準備は出来ている!!」


 俺の護衛役のザックが作戦本部に駆け込んできて怒鳴る。さて、出番のようだ。


 急いで城壁の穴を潜って領外にでると、四本足で地を這うような姿勢の竜、地竜が魔物使いをその背に乗せてまっていた。俺とザックはこの地竜に乗って第一防衛ラインに急ぐ。


「出してくれ」


 地竜の背につけられた鞍に飛び乗り声をあげる。魔物使いは頷き、地竜が動き始めた。



#



 最初はゆっくりに思えたが、スピードに乗るととんでもない速さで地竜は進んだ。森の悪路だって全く問題にしない。


 普通に進めば二日ほどの距離を半日ほどで踏破した。


 第一防衛ラインには風魔術師がいた。コボルトの拠点を見張っていた男だ。緊張しているようで、そわそわと落ち着かない。


「夜にはコボルトの行進の先頭がここに到達します!」


 そう言って第一防衛ライン、通称「死の壁」を見上げた。


 ここでの俺達のミッションは単純明確。既に千体を超える数に膨れ上がっているコボルトを少しでも削ることだ。


 森を区切るように作った死の壁の高さは10メルほど。ただし厚みはなくそんなに長くは持たない筈だ。しかし、足止めさえ出来れば充分。


「マルス! 早く上にいって準備しよう」


「ですね。いきましょう」


 高いところが好きらしいザックがうずうずした様子で死の壁とは別に作ったレンガの階段を指差す。この階段は30メルの高さまで伸びている。そして階段を登った先にあるのは真っ黒な石レンガで作られた天空のデッキ。


 この天空のデッキは死の壁で足止めしたコボルトを覆うように固定されている。そして、材料となった石レンガは俺が特別に圧縮して作った謹製のもの。屈強な冒険者でも二つ持って歩くのがやっとだ。


「この暗視の魔道具を」


 レンガの階段を登り終えると、ザックはゴーグルと短剣を渡してきた。今回の作成用に冒険者ギルドから支給されたものだ。


「気が早いなぁ。ザックは」


「マルスはなんでそんなに落ち着いているんだ?」


「俺だって緊張はしてますよ? ただ表に出さないだけです」


 二人、遠くまで広がる天空のデッキに腰を下ろしてしばし語らう。


 そうしているうちに、陽が落ちてきた。

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