第13話 副ギルドマスターからの報告書
■レンガ職人とスキルについて
心配なのは、これから私の伝えることをどれだけの人が信じてくれるのか? ということだ。
私は今、マルス領に新しく出来た城壁の物見塔──四つあるうちの一つ──でこの報告書を書いている。物見塔の高さは20メルぐらい。高い所が苦手な人にはクラクラするような場所だ。城壁自体も10メルの高さはあるのでラストランドよりも強固な守りと言えるだろう。
ちょっとした村と呼べるだけの範囲を壁で囲み、物見塔まで作ってしまった。たったの十日で……。
これは、マルスという男の仕業だ。
年は15歳を少し超えた頃だろう。彼の持つジョブは【レンガ職人】。私の知る限り、このジョブを持つのは彼しかいない。
レンガ職人は大きく二つ、スキルを持つらしい。一つは【レンガ作成】。もう一つは【レンガ固定】。
レンガ作成について語ろう。
これは岩や木からレンガを作成するスキルである。彼が手で触れて念じると、対象は一瞬でレンガになる。このスキルの素晴らしいのはレンガ作成と整地を同時に行えることだ。
特に木レンガ作成。
魔の森を切り開く時に一番時間がかかるのは樹木の伐採である。単純に切り倒すだけでは駄目で、根っこまで掘り起こさなければならない。それを木レンガ作成のスキルを使うと一瞬で終わらせることが出来る。
木レンガの耐久性に疑問を持つかもしれない。最初は私も守りの要である城壁が木レンガで大丈夫かと思ったものだ。しかしそれは杞憂だった。
彼は樹木を木レンガにする際に圧縮出来るらしい。私の目測では体積が五分の一程度になっていた。その分、木レンガは硬く丈夫なのだ。
次はレンガ固定だ。
これは恐ろしいスキルだ。彼がレンガに手を触れて念じるとレンガが空間に固定されてしまうのだ。範囲についてもある程度なら指定出来るようで、レンガ同士が触れ合っていれば連鎖するように固定出来てしまう。
たった五日ほどでこのような高い物見塔を作れたのはレンガ固定スキルのおかげだ。冒険者達が積み重ねた木レンガをマルスが片っ端から固定してしまう。足場だって簡単に作れるので作業効率が恐ろしいことになる。
さて、ここまで読んで疑問に思ったのではなかろうか? これだけ強力なスキルを連続で使うことが出来るのか……? と。
答えとしては、「出来る」だ。
マルスはスキルを使っても全く疲れない。ただ呼吸をするようにスキルを使う。異常である。
■マルスという人物について
まだ私とマルスの付き合いは短い。その中で感じた彼の印象について綴ろう。
マルスは基本的に親切な青年である。困っている人が居れば、すすんで助けようするタイプだ。実際、怪我をした冒険者を助けたりもしている。
ただ、無邪気なお人好しかというと、それも違う。
マルスは賢く、自分の振る舞いが周囲にどのような影響を与えるのかも考えている。
いま、マルス領には五十人を超える冒険者が駐屯しているが、常に一定の距離を保っている。過度に関わることでのトラブルを避けるように……。
これは完全に推測なのだが、彼は貴族、もしくは裕福な商家の出なのではなかろうか? まだ若くして相手との駆け引きが出来るぐらい強かさがある。
なので、冒険者ギルドや辺境伯の立場を使って彼を取り込もうとするのは悪手となろう。マルスと良好な関係を築くには地位や立場を忘れて、友人として接する必要がある。
#
「ふぅ。こんなものか」
私は筆を置いて報告書を仕舞う。ふと領内を見下ろすと、件のマルスが三人の冒険者を連れて何か相談している。
「何をするつもりかな?」
ずっと見ていると、マルスの指示を受けた冒険者が穴を掘り始めた。領内に落とし穴? それなら外に仕掛けるべきだろう。一体、何を始めるつもりだ……?
深い穴が出来たかと思うと、今度は木レンガが運ばれてきた。大量だ。それが綺麗に穴の中に並べられていく。木レンガの在庫を領内に確保しておくのだろうか? まぁ、わからなくもないが……。
「ミャオ〜」
マルスの飼う首刈り猫が物見塔に登ってきた。陽に当たりに来たのだろう。私の方を見て、「邪魔だ」という顔をする。
「仕方がない。譲りましょう」
そう言って私は物見塔を下り始める。流石にマルスは私に気がついたようで一瞥をくれる。
「マルス君。木レンガを埋めて、何をするつもりだい?」
「ちょっとしたおまじないですよ」
おまじないねぇ。君はそんなタマではないだろうに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます