第11話 冒険者の話
「本当に助かった。マルス、感謝する。テトも……ありがとう」
わざわざ改まってスニフは言った。ザックとチキもそれに倣う。三人ともいまだにテトが怖いみたいだけど、可愛い猫だよ……?
「ここを去る前に一つ話をしていいか?」
家の中で俺と冒険者の三人、そしてテトは丸いテーブルを囲んでいた。皆で食事をする為に慌てて作ったものだ。
「いいですけど……。なんですか?」
咳払いをしてから、スニフは続けた。
「気付いていると思うが、コボルトについてだ。この異常繁殖と上位種の出現はコボルトキングが誕生したとしか思えない」
眉間に皺を寄せながら、苦い記憶──ザックの怪我──を思い出しているのかもしれない。
「普通、ハイコボルトが集団で行動することなんてねーんだよ! ハイコボルトってのはお山の大将。手下のコボルトをコキ使う。それが、どーだ! 俺達を襲った五体のハイコボルトは仲良く連携してやがった!!」
怪我が良くなったザックが喧しくがなる。ハイコボルト達に対して随分と溜まっているようだ。
「キングが誕生するとね、魔物の進化が促進されるの。魔物の体内にある魔石が活性化してね。だから、普通のコボルトがあっという間にハイコボルトになる。それが普通の兵隊と同じように振る舞うのよ。やってられないわ」
チキはテーブルに頬杖をつき、少し気怠そう。
なんとなくだが、三人の仕草には芝居じみたものを感じる……。何が始まるのか……?
「俺達以外にも三つのパーティーがコボルトの異常繁殖について調査依頼を受けている。どのパーティーも"コボルトキングの誕生は間違いない"と報告をする筈だ。近いうちに討伐隊が組まれるだろう」
スニフが俺の目を見ながら、念押しするように言った。
俺はテトを膝に乗せ、背中を撫でる。ツルツルとした毛並みが気持ちいい〜。一生、撫でていられ──。
「マルス! 聞いているのか!?」
ザックの大声にテトが眉を顰める。
「聞いてます、聞いてます。でも……あんまり俺には関係ないかなぁ〜って」
「関係あるだろ!! コボルトはどんどん繁殖して魔の森での勢力を拡大する筈だ!! ここだって安全じゃない!!」
「なるほど……。外壁を高くしますね」
「魔の森の中だけで済めばいいが、いずれ森から出てラストランドにまで伸びてくるだろう。過去にゴブリンキングが誕生した時はラストランドに甚大な被害を与えたらしい」
スニフはまだ俺の目をじっと見ている。
「それは大変だ。辺境伯の軍が間に合えばいいですけど……」
「マルス! お前!!」
「ザック、やめろ」
なんでザックは怒っているんだ?
「あのねぇ、マルス。あなたに凄く感謝しているの。ザックなんて命の恩人だと思っているわ。本当にありがとう……。その上で言わせて……。私達はこの二日間で【レンガ職人】の凄さを知った。ジョブの名前を聞いた時はびっくりしたけど、実際はとんでもなく有能。特にこの辺境においては……」
チキまで。一体……何を言いたいのか?
「俺達はコボルトキングの件と、この"マルス領"についても冒険者ギルドに報告する。もし、マルスが協力してくれるならコボルトキング誕生による被害を最小に留められるかもしれないと」
えっ……。
「それはちょっと……」
「マルスが何故、魔の森で暮らし始めたのかは分からない。何かしらの事情があるのだろう。それを詮索したりはしない。ただ……」
ただ……?
「ずっと一人で生きていくことは出来ない。"恩を売る"ぐらいの感覚でいい。もし、冒険者ギルドから打診があった場合は少しでいい。マルスの力を貸して欲しい。絶対に俺達はマルスへの感謝を忘れない」
スニフの言葉を待っていたように、ザックとチキが立ち上がった。そして、俺に向かって頭を下げる。
「……やめてくださいよ。急にそんなこと言われても困るんですけど……」
「では、俺達は行く」
三人は俺の言葉に答えず、家から出ていってしまった。
なんなんだよ……。
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