監禁殺害されかけてるから……
「やだなあ、せんせー。フィアちゃんの家はとっくに没落しちゃって、お姫様も何もないよ~」
「没落!!? え!? 没落したの!? ステラノーツ家が!?」
「妖精種自体が、没落してるようなものだからねぇ」
「あー、そうか、そうだよな……すまん」
「うへ~、謝らないでよ。フィアちゃんにとっては歴史なんだからさ。気にしないでって言葉以外、言ってあげられないよ?」
子供のようでありながら、実に大人びた笑みを浮かべ、ステラノーツはそう言った。
実際のところ、俺の肉体はかつて──十六歳のままであるのだから、ある意味ではステラノーツは一つ上の先輩であり、大人であるというのは間違ってはいないのだが……。
何なら記憶もその時点で止まっているのだから、俺の主観からすれば、真っ当に年上の女性ではあった。
まあ、そのくせ関係性としては先生と生徒であるのだが。
ついでに言えば、ステラノーツから見た俺は大昔の人間であるのだった。
主観と客観がこうも食い違うと、色々と面倒だなと思う。
尤も、そんなことは今更にすぎるのだが……。
目覚めてからまともに話したのが、全く変わった様子のない師匠と、多少は変わったものの、その程度であったシャリアだけだったのだから、仕方ないというものだろう。
魔物達との戦争が長引きすぎているせいか、文明レベルが極端に上がってる感じもしない。
それはそれで都合が良いのだが、同時に責任を感じるというものでもあった。
「まあ、そうでなくとも、今の王の最有力候補は、ノクタルシア家なんだけどねぇ」
「知らない家名だな。何だ、突然変異でも出てきたか?」
「あはは、まあ、そんなところかな……今のノクタルシア家の当主は、フィアちゃんと同世代だけど、黒髪だから」
「それ、は……」
正直言って、驚いた。というか、驚くほかなかった。言葉を上手く紡げなかったくらいに、俺は絶句した。
一つの世代に、妖精種の金髪と黒髪が生まれるなんてことは、俺の知る限りでも初めてである──というか、歴史を鑑みても、初めてなんじゃないだろうか。
金が王族であるのならば、黒は原種を意味する色だ。
この辺、かなりややこしいのだが……原種、つまり、この世界に一番初めに生まれた妖精種は黒髪だとされている。
あらゆる魔法に適合した、初めの妖精種は純黒の種族だった。
そこから繫栄し、他の種の血が混ざることで血が薄れ、やがて妖精種は得意な魔法が限定されるようになり、髪色が変わったとされる。
全ての
これが一般的に、四大魔法属性と言われるもので、現在の妖精種はこの四つにばらけることが基本である。
その中で、何故金髪が王族とされたのかと言えば、「雷魔法を得意とするから」の一点に尽きる。
四つある属性のどれを、どのように組み合わせても、雷魔法を扱うことは出来ない。
故にこそ、雷魔法の使い手は非常に稀少であり、その上で得意とするのだから、金髪の妖精種は、自然と王族の立ち位置を得たのだった。
けれどもそれは、黒髪の妖精種がいないことが前提だ。
黒は全てを含有する。
黒は全てを得意とする。
そして何より、黒は始まりなのである。
自然と敬意を集めるだろうし、当然のように崇められる。
王としての継承権が渡ってもおかしくはない。
というより、そうなるのが自然だ。
しかし、そうなればこれまで王として統治してきた側──つまり、これまで最も王を輩出してきた、いわば王家である、ステラノーツが黙っていられる訳がない。
実際、300年前だって、金と黒が混ざったやつが生まれ、かなりゴチャついたことになったのだ。
そんで300年経ったら、今度は金と黒の二人がいるというのだから、ゴチャ付き方は300年前の比ではないだろう。
所感としては、めっちゃ揉めてそう……って感じである。
「フィアちゃんとしては、仲良くしたいんだけどね~」
「へぇ、妖精にしては、随分と平和主義なんだな、ステラノーツは」
「まるでフィアちゃんたちが蛮族みたいな言い方!? 確かにその気はあるけど、基本的には穏やかな種族だよ~」
「悪いな。俺、妖精種に監禁殺害されかけてるから……」
「それ、絶対せんせーにも問題があるやつでしょ~……」
騙されないからね~? とふんにゃりとした雰囲気のまま言うステラノーツだった。
チッ、察しの良い奴め。
あれは仕方のないことだったんだよ、と内心言い訳を重ねていれば、チャイムが鳴り響く。
そういえば、授業の間の休み時間だったな。
俺もさっさと次に向かわねばならない。
ステラノーツも教室に戻った方が良いだろう。
「じゃ、またね、せんせー」
「ああ、またな」
それなりに重い話をした割には、教室へと戻るステラノーツの足取りは軽かった。
まあ、同世代だということは、知り合いなのは間違いない訳だし、本人の中では色々と割り切れているのかもしれない。
多少なりとも気にかけた方が良いかもなと思っていたが、その必要はなさそうである。
他人の心配してる場合じゃないだろ、という話だ。
先生としても、勇者としても、これから頑張らないとなーっと、改めて気合を入れ直した────のだが。
「せんせー、お願いがあるの。どうかワタシを、王にさせないで」
そんな俺の覚悟を蹴散らすように、黒髪の妖精は俺に、そう頭を下げたのだった。
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