DVされる側の素質あるよね。
「いや? 生きてるよ、少年の仲間。聖女ちゃんに、魔法使いちゃんに、剣士くんだろう? うん、三人とも、バリバリに活躍してる」
「俺の仲間、全員長命種だったのか……!?」
300年越しに明かされる、衝撃の事実だった。
おい、嘘だろ。
何でもっと先に教えてくれないんだよ。
腹割って全部話しあった仲だと思っていたのが俺だけ説が出てきてしまい、早速泣きそうになってしまった。
「いや別に、そういう訳ではないんだけど……ま、その辺は本人たちから、直接聞くべきだね。彼らも今か今かって、少年のことを待ちわびているだろうから」
「俺を待ってるんだ、それは普通に嬉しいな……」
「少年って結構、DVされる側の素質あるよね」
「それただの罵倒じゃない?」
誰が「あの人にも良いところはあるの!」って庇うタイプの人間だよ。俺はそこまで盲目的ではない……はずである。
ちょっと不安になってしまうので、ストレートにそういうことを言うのはやめて欲しかった。
「まあでも、かつての仲間との再会ってのは美味しいシチュだしね。色々説明がてら、会いに行くとしようか」
「急に上位生命体みたいなこと言い出すのもやめませんか?」
何が美味しいシチュだよ、人の人生を食い物みたいに言うのはやめろ!
俺自身もちょっとそう思ってしまっただけに、謎の敗北感がある。
そんな俺の内心を見透かしたように(というか、事実見透かしているのだろうが)、ニヤニヤと笑みを浮かべた師匠が「こっちだよ」と先導してくれる。
それについて行けば、あっさりと部屋からは出れた。
構造としては洞窟のようなものであったらしく、ブワリと吹いた風にあおられる。
上を見上げれば、見慣れた蒼空が広がっていた。
まあ、見上げなくても青空が広がっているんだけど……え? ここ、もしかして空島か?
島と呼ぶには烏滸がましいくらい面積は小さいが、間違ってはいないだろう。
見慣れた太陽が、比較的近くに感じられる。
「そう、ここは空島だ。現在の主な、魔物以外の種族の生存圏と言えるだろう」
「……? あー、なるほど。地上は制圧されたんですね」
「そういうことになる。今や地上は魔物の世界さ……まあ、もう空でさえ、安全とは言えないけれどもね」
「もしかして、竜型が増えてる?」
「御名答! まあ、正確に言えば、魔物は種類と数を、ここ数十年で桁違いに増やしている、になるんだけどね」
そら、見たまえ。と師匠が空島の淵に立って指をさす。
それに従い地上を見れば、「これは確かに魔物の世界だな」と思わせられた。
地上が、赤や紫に染め上げられている。
それは魔の領土であるということの証明。
魔王の魔力が地に浸透し、明確に制圧したことを示すものであった。
どれだけ見渡してみても、それは変わらない。
ほんの少しの隙も無く、満遍なく世界は支配されていた。
「アレほどいた、魔物以外の多種多様な種族も、めっきり数を減らした。このままでは、あと十年もしない内に、魔物以外の種族は絶滅するだろうね」
「そうはならない。そうさせないために、俺が目覚めたんでしょ」
「おっと、強気だね、少年。一度負けたのに、まだ戦おうって言うのかい?」
「それが俺の役目でしょ」
世界が滅んだ後ではなく、世界が滅ぶ一歩手前に目覚めたのだ。それはつまり、俺が世界を救わなければいけないということである。
あれから300年が経ったというのならば、きっと勇者も、俺一人だけなのだから。
残された者には、使命が与えられるものだ。
それはきっと、いつの時代でも変わらない。
そして俺の使命は、300年も前から決まっている。
──魔王の打倒。
それが、俺の使命だ。
かつて、俺が成し遂げなければならかったこと。
成し遂げることは出来ず、失敗に終わったこと。
そして今、再び成し遂げなければならないこと。
「流石だね、少年は。やっぱり少年が、一番勇者らしい」
「まあ、文字通り勇者ですからね。オンリーワンの存在ではないですが……」
「いやいや、今となってはもう、少年のオンリーワンさ。だから、本当に良かった。少年が、まだ戦ってくれるというのは、朗報だ」
ちっとも嬉しくなさそうな顔で、師匠が笑う。
事実、朗報ではあるのだろう。
ただ、師匠は元々、俺が旅に出ることすら反対していた人だったからな。
俺に戦う術を叩きこんだ張本人なくせに、争いごとを嫌悪する人なんだ。
あるいは、戦闘に精通しているからこそ、嫌悪しているのかもしれないが。
「ただ、今はまだ準備期間だ。というか少年、今のままじゃ何の役にも立たないしね」
「えぇ……? これでも俺、そこそこ強い方な自負があるんだけど……」
「あははっ、そりゃ戦力だけで言ったら、少年は多分、今でも最強格だよ。ただ、問題はそこじゃなくってね。少年の身体、まだ治り切ってないんだ」
あっけらかんと師匠はそう言った。
いや、全然治ってると思うんだけど……。
というか、治ったから起きれたんじゃないの?
「うーん、いやね、肉体は万全なんだけれど……少年、魔王に何かされただろ。魔力回路が滅茶苦茶だ。それじゃあ、まともに魔法使えないよ」
「はぁ? 何言って──」
るんですか、という呆れ切った台詞を、しかし続けられなかった。
三歳児でも普通に扱える、初級の火属性魔法を起動しようとした瞬間、全身に激痛が走る。
吐き気が体中を駆け巡って、その場にくずおれてしまった。
「ほぅら、言っただろう。その……そうだね、いわば呪いが解けない以上、少年を戦いには向かわせられないな」
「お、俺の存在意義が……」
「無いねぇ。役立たずも良いところだ──しかし、私はそんな少年に良いポストを用意している!」
「おぉ! すげぇ不安だ!」
マジで不安しかなかった。というか、俺の身体に呪いがあることは前から分かっていたっぽいので、今に至るまで解けなかったという事実が、更に不安を加速させる。
何だろう……実験台のモルモットとかにされちゃうのかな。
「少年にはね、学校の先生になってもらうと思う」
「なんて?」
「因みに学校は三つあって、それぞれの校長が、少年のパーティメンバーさ!」
「どういうこと?」
「さ、それじゃあ早速行こうか。まずは魔法使いちゃんの学校────ユメルミア学園だ」
「俺の質問に答えろーッ!」
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