👼👼👼

その後も真美は天使を目撃し続けた。


出会う条件はいつも同じ。


快晴の空に漂う雲から、張り付いた様な不気味な笑顔。


そして真美が天使を目撃した直後、必ず凄惨な事故で死人が出た。


そんな事が二十年続き、気付けば真美は結婚し、子供をもうけていた。


そして子供ができてから、天使の存在を恐怖に感じるようになった。


天使を見た直後、事故に遭うのが子供や夫だったら…職場にいるであろう夫や、保育園にいる我が子が心配で、どうにかなりそうだった。


このままではノイローゼになるかもしれない、そんな事を思いため息をついていたところ、同僚の西岡さゆりに声をかけられた。


西岡さゆり、確か年齢は真美より五つ程上。


しかし、さゆりは真美より若く見えた。

それでいて立ち居振舞いなどは、実際の年齢よりも上に見える。

年齢を感じさせない若々しさがあった。


ミステリアスな色気の漂う一重瞼、少し低めの鼻と口角の上がった唇に、親しみやすさと天使の様な愛らしさを感じさせる。

肩の下まで伸びた黒髪は、いつもツヤがありまとまっていた。


さゆりが現れると、辺りがパアッと明るくなった様に感じる。

存在するだけで、彼女は人を幸せな気持ちにする事ができた。


それは彼女の外見美しいから、というだけではないと真美は思う。

理屈では説明できない、不思議な魅力が、能力が彼女にはあった。


その魅力故に、部署中、いやおそらく部署の外、社外でも彼女に抗う事のできる者はいないのではと思う。部長も彼女の機嫌をいつも窺っている。


かといって、さゆりは決してモラハラ・パワハラ気質ではなかった。

むしろ人を喜ばせる事に長けていた。

元々、何もしなくてもそこにいるだけで喜ばれるだけでなく、言い方や伝え方、間の取り方が絶妙なのだ。


「実は…」と、真美は思わず抱えている事をありのままに打ち明けた。


こんな話は夫にすらした事が無い。

夫婦仲は良いが、いくらなんでも頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。

それに自分でも、あの天使が幻覚なのかそうでないのか確信が持てなかった。

しかしさゆりの前では、不思議とそんな不安も消え、何もかも話す事ができてしまった。


さゆりは笑い飛ばしたり、気味悪そうな顔もせず、最後まで真剣な面持ちで耳を傾けてくれた。


「それは何だか怖いし、気味が悪いでしょうね。旦那さんやお子さんの事も心配になるわ。」


さゆりが気遣うように言った。


「そうなの…快晴の日はもう、空を怖くて見れない…」


真美は眉間に皺を寄せ、青い顔で俯く。


「もしこれ…こういうのに抵抗がなかったら。」


と言い、さゆりが掌程の白い紙切れを手渡した。

紙切れにはよく分からない、ぐちゃぐちゃとした文字のようなものが書かれている。


「悪いものから守ってくれるお守り。

その天使が悪いものかどうかは分からないけれど…でも、もし天使が悪い存在なら、あなた達を天使から守ってくれるわ。

それをあなたが身につけている限り、あなたと家族だけは無事よ。」


他の人間が言えば胡散臭い話も、さゆりが口にすると信憑性を帯びた。


真美はさゆりに礼を言うと、大切に仕舞った。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る