第088話 恐獣・烈玖珠(2)
──ズンッ……ズンッ……ズンッ……!
──ドンッ……ドンッ……!
巨獣と巨兵の間合い、およそ二〇〇メートル。
互いに地面を震わせながら、じわじわと間合いを詰める。
烈玖珠の右後脚に路面電車の架空電車線が絡まり、火花を派手に散らした。
烈玖珠に熱や痺れを嫌気する様子は見られず、電線を引きずりながら前進。
それを見た愛里と六日見狐が、前のめりの姿勢で唸る。
「架線を蹴って火花バチバチ! 怪獣のお約束守るとは、強そうねアイツ!」
「しかも登場時には、礼儀正しく咆哮じゃ。やりよるぞ奴は。して愛里、あの巨兵の武装はなんじゃ?」
「たぶん、殴る蹴るだけ……かな。光線とかミサイルとかは、向こうの文明的に期待しないで」
「ふーむ、そうか。じゃが、とどめの必殺剣は欲しいところじゃのう」
「あの
巨兵と巨獣が、直線道路上でいよいよ交戦。
修復工事中の旧長崎英国領事館前で双方、肉弾戦の間合いに入る。
先手は烈玖珠。
「ギャッ!」と短く吠えたあと、前のめりのすばやい前身で巨兵に組みかかり、上方からその左二の腕へと勢いよく噛みつく──。
──ガギンッ!
短く鈍い金属音。
巨兵の厚い鎧は烈玖珠の牙を通さず、その牙も折れることもなく頑丈。
烈玖珠はギリギリと顔を左右へ揺らし、鎧へ牙を通そうとする。
対する巨兵は膝を曲げ、烈玖珠の後脚の付け根を左右から抱え込む。
そして踏ん張りながら、じりじりとその巨体を持ち上げる。
コックピットでナホが、烈玖珠に負けじと叫んだ──。
「うううぅ……! 戦姫團史上最強と言われるこのパワーで……おとなしく倒されちゃってくださーいっ!」
自分より一〇メートルほど巨体の烈玖珠を、
巨兵の頭の高さへ、上下逆さまに持ち上げられた烈玖珠。
野生の強力な筋力をもってじたばたと暴れるが、巨兵はその腰周りにがっちりと腕を回して固定。
「でええぇええぇいっ!」
二つの巨体がわずかに宙に浮く。
そして巨兵が、路面電車の線路上へと、烈玖珠の頭部を叩きつける──。
──ドゴオオォオオンッ!
「垂直落下式パワーボム!」
「垂直落下式パワーボムじゃ!」
愛里と六日見狐のユニゾンの叫び。
架線からバチバチと派手に火花が舞い、周囲に粉塵が舞う。
あたかも技の決まりとともに、爆発が起きたかの様相──。
──グギャアアッ!
頭部へダメージを負った烈玖珠は、左右へ身を転がしながら起き上がろうとする。
それをさせじと、巨兵が烈玖珠を跨ぎ、重圧で動きを封じる。
そして顔面への、両腕での激しい殴打──。
「……解説の六日見狐さん。開幕早々のフィニッシュ・ホールドとも言うべき大技。そこからのマウントポジション。これはもう、決まったんじゃないですかねー?」
「しかし烈玖珠のモチーフと思われるティラノサウルスは、頭蓋骨の厚さに定評があるからのう。一時的には脳が揺らぐかもしれんが、それが収まれば逆襲は十分にありえるぞい。なにしろ烈玖珠のが一回り巨体じゃからの」
愛里と六日見狐が、二つの巨体の戦いを流暢に実況。
周囲にいるリムたちは二人を見て、「なに言ってんのこの人たち……」と、冷ややかな視線を向ける。
その間にも巨兵と巨獣の戦いは進展。
六日見狐の予想どおり、脳のぶれを鎮まらせた烈玖珠が、激しい身のよじりで巨兵を振るい落とす。
「きゃっ!」
短い悲鳴とともに、巨兵ことナホが尻もち。
烈玖珠が逆襲とばかりに間髪入れず覆い被さり、両前脚の爪で巨兵の上半身を雑に引っ掻き続ける──。
「形勢逆転! 力任せでマウントを取られると、
「しかもティラノは近年の研究で、脳は小さいながらも神経細胞の密度は高く、道具を扱えるくらいに知能があった……とも言われておる。烈玖珠も噛みつきから引っ掻きへ戦術を変えたあたり、知能が高いのかもしれんのうっ!」
「しかし
なぜか息の合った実況と解説で、愛里と六日見狐が現状を説明。
仰向けで受けに回ったナホは、烈玖珠の殴打を落ち着いて両腕でガード中。
「この体勢からの脱出は……ロミアさんに教えてもらってますっ! 男に覆い被さられて襲われたときの……脱出法ですっ!」
巨兵が烈玖珠の両前脚を掴み、その攻撃を制止。
すぐに両腕を勢いよく引き、烈玖珠の全身を自身の真上へと運んだあと、その腹部を利き脚で激しく蹴り上げる──。
「でええぇええーいっ!」
巨兵は烈玖珠の腹部を蹴り上げると同時に、掴んでいた両前脚を同時に離した。
烈玖珠の体が宙に浮き、国道から海側、長崎水辺の森公園駐車場へと放られる。
わずかに放置された車両を押し潰しながら、烈玖珠の身がアスファルト舗装へと叩きつけられる。
その隙に立ち上がった巨兵が、足音を高鳴らせて追撃。
戦いの場を、国道から長崎水辺の森公園の広大な平地へと移す──。
「いやー、六日見狐さん。いよいよ戦いの場が、
「うむ。しかしマウント合戦からの巴投げを見て、儂はこの勝負、プロレスではなく総合格闘技と見たぞい。お互いまだ技の引き出しが多そうで、実に楽しみじゃのう」
長崎水辺の森公園北部の、外周の車道へ移動したマツダ・キャロル。
その車体の前で、得意満面で解説と実況をする、愛里と六日見狐。
リムたちは変わらず、二人へと冷ややかな視線を注いだ──。
(※1)特撮作品において、都市部のド真ん中に不自然に存在している乱闘用の広いスペース。別名ウルトラ広場。「ジャンプ後の採石場」と同義。
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