第082話 海獣・磯撫(4)
──戦姫團・長崎本陣。
SNSに流れる磯撫の映像をスマホで見ながら、愛里が焦れる。
「ンもぉ~。毒まき散らしてるバケモノ、実況配信してる奴いんのねー。まあこっちは、情報得られて助かるけど……」
愛里はSNSのタイムラインをスワイプし、さらっと雑多な情報をチェックしてから、再び磯撫の動画を再生。
「三つ子ちゃんの声でダメージ与えるのは妙案だったけれど、あと一声足りず……ってとこかぁ。磯撫を倒せば、残る下僕獣四体は長崎港湾部だから、伝令兵なしでもなんとかなる。大村湾へラネットを投入する手もあるけれど、出島バイパスぶっ飛ばしても半時間はかかるし……うーん」
「再召喚すればよいぞ?」
先ほどから横目でスマホをチラ見し続けていた六日見狐。
初めて能動的に口を開いた。
「……えっ?」
「大声ボクっ娘を、再度そこの眼鏡女子に描かせ、場所を指定すればよい。同一世界への再召喚……すなわちテレポートが可能じゃ」
「そ、そんなことできるんだ……。でもアンタ、助言NGだったんじゃ?」
「いましがた、できるようになったぞい。この意味わかるかの?」
「……残る五体のアンタ。わたしたちが勝たせてもらった……って、ことね?」
「うむ。儂は寸刻前、下僕獣の
「力強いわ。で、ラネットを新たに描き起こせば、大村湾へ送り込めるのね?」
「そうじゃ。磯撫は言わば、高精度の超音波送受信機。大声ボクっ娘ボイスが直撃したならば、たまらんじゃろうな」
「よしっ、それでいきましょっ! でも貴重な伝令兵を手放す前に、最後の現状確認! トーンちゃん、巨竜の動き、どうっ!?」
聴音壕の縁で膝を曲げ、内部を覗き込む愛里。
壕の内壁に背をつけて集音しているトーンが、顔を正面に向けたままで返答。
「南東から……巨大な足音……来てる。足音の反響から見て……山際を移動中……」
「野母崎方面から山際……。阿鼻亀への砲撃を見て海際を嫌い、
「いま……トンネルを抜けて……左折。ラネットの伝令通り……進んでる。巨大サンショウウオは、一定距離で二人を追尾中……」
「よしっ。このまま有毒の蟲女を、悪喰に食わせて同時に片づけるわ!」
愛里がすっくと立ち、勇ましい表情をラネットへと向ける。
かつて蟲の親玉、
「ラネット、これからこの世界へ来たときの要領で、遠くへ移動してもらうわ。いま、ディーナたちが交戦しているシャチのバケモノへ、アンタの特上の叫び、ぶつけてやって」
「はいっ!」
「それが終わったら、この陣地は捨てる。アンタたち二人、聴音と伝令の任は終了。この港湾部で、残る下僕獣と一気に交戦する」
「……わかりました。ボクがいない間、トーンをお願いします」
「任せて。それから……飛んでもらう前にここから、最後の伝令を放ってもらうわ。重鎧巨兵のナホちゃんは、芝生が広がる公園わきの広い道路で待機。ルシャ、セリ、そして天音は、野砲の砲撃の出所へ向かい、砲隊長、エルゼルちゃんと合流。これを
愛里はいまの内容を目的ごとに区切り、簡潔にまとめて復唱。
それをラネットに伝令させた──。
「あと……。糸目ちゃん、シーちゃん、そして……ステラは、女神大橋上で待機! 『目』の目視によって状況を把握しつつ、巨大ガメ、巨竜、蟲女の動きに、速やかに対応する! 以上……健闘を祈るっ!」
その場で愛里の口から伝令を受けたステラは、愛用の武器、
(お師様の最後の采配……厳守します!)
その背後で筆を執るリムは、ラネット転移用のための作画に取り掛かりながら、表面が皺々になった絵の具のチューブの列へ視線を落とす。
(金髪の色合いを出す絵の具、もうカツカツなんですよね……。ラネットさんがあれから髪伸ばしてなくて、助かりました……ふぅ)
(※1)長崎市の町名。一九八四年落成の住宅地「南長崎ダイヤランド」にちなむ。三菱グループが造成した住宅地ゆえの命名だが、しばしば「長崎市ではダイヤモンドが産出している?」と、ネタにされることがある。
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