第067話 恋人・逆位置 -LOVERS REVERSE-(3)
「──ラネット! ジト目ちゃんへ伝令っ!」
「はっ、はいっ!」
戦姫團の本陣で、愛里が声を張り上げる。
怒号にも近いその大声に、大声自慢のラネットも、びくりと体を震わせてしまう。
愛里はSNSで中継される、エルゼルの苦戦の様子から目を逸らさずに、采配を継続。
「巨大サンショウウオを、エルゼルちゃんのところまで誘導してっ! 最短経路は、順次こちらから指示出すからっ!」
「了解っ、伝令しますっ! イッカさん! 巨大サンショウウオを、エルゼルちゃん……もとい、エルゼル前團長が交戦中の場へ誘導してくださいっ! 最短経路は、ボクが順次伝えますっ!」
ラネットの戦姫補正を帯びた大声が、稲佐山のイッカへと届く。
伝令を終えたラネットは、ちらりと愛里へと目を向けた。
愛里は険しいの顔のままでスマホを覗き込み、つぶやく──。
「あのクモ女が毒持ちとは……うかつだったわ。クモの部分が
俗にタランチュラと呼ばれるクモの仲間は無毒か、有毒でも人体への影響は弱い。
腹部から炎症を引き起こす体毛を撒く種もいるが、これも軽症で治まるとされる。
愛里の左隣から六日見狐が、愛里の顔とスマホのディスプレイを交互に覗き込んだ。
「知識というものには、そこから先への想像を止めてしまう一面があるからのう。まあクモの毒の有無は、かのお茶の水博士も勘違いしておるからしょうがないのじゃ」
「読み切りの『
「……お主とは、この戦いが終わったら漫画談義をしたいのぉ。して、悪喰を向かわせたのは、下僕獣の相殺を狙うためかの?」
「当たり! 強毒を持つ獣を、なんでも食べる獣に食わせる! いかに生命力が強くても、毒の塊を食ったら再生できないでしょ?」
「そう上手く誘導できるかの?」
「ジト目ちゃんは策士だから、なんとかやってくれると思うけれど……。稲佐山から神の島公園は、距離が不安材料ね。巻島先輩から、京都伏見の石垣くんまで……か」
「ふむふむ。『
「……的確にツッコまれると、調子狂っちゃうわねー。あっちの世界じゃ、だれもツッコめないの前提でボケてたから。ま、漫画談義の件は、承知したっショ」
六日見狐との漫画問答を卒なくこなしながらも、愛里の目はスマホから逸れない。
ネット上の情報を漁りつつ、苦戦を強いられているエルゼルへ、内心でエールを送る。
(……エルゼルちゃん、こっちへ呼んでおきながら助けに行けず、ごめん。でも采配で、きっちりフォローするから。あの戦いでの、アンタみたいにね)
かつての蟲との戦いの中で膝を故障し、以後は采配に徹して、戦姫團を勝利へと導いたエルゼル。
人体のリミッターを解除したことで全身ボロボロになり動けない愛里は、いま、同じ状況に置かれている。
同胞を救いに行きたくとも行けない立場で指揮を全うした当時のエルゼルに、愛里はあらためて敬意を表した──。
(※1)手塚治虫漫画全集「ザ・クレーター(3)」収録の読み切り短編。旅客機内に現れた大型のクモと、人種差別をテーマにしたパニックサスペンス作品。
(※2)長崎市内には漫画「弱虫ペダル」のキャラクターが描かれたマンホールが各所に設置されている。令和五年五月には茨城県つくば市でも導入された。
https://www.city.nagasaki.lg.jp/shimin/150000/158000/p037534.html
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