第047話 エロ眼鏡令嬢&乱暴侍女 セリ・クルーガー&ルシャ・ランドール
六体に分離している、遊女姿の六日見狐。
声を揃えて、アリスへと語りかける──。
「「「「「「にょほほほほっ! 嗅覚で看破されては、
「ああもう、聞き取りづらいっ! 一人ずつ喋りなさいなっ!」
「儂は攪乱要員ゆえに、戦闘は不得手じゃが」
「下僕獣である以上、与えられた仕事はせねばならぬ」
「どうやらここが、お主らの本陣の模様。ならば……」
「……ここを引っ掻き回せば、指揮命令系統が乱れる」
「ゆえに儂ら六体と、しばらく遊んでもらおうかの……と、いうわけじゃ!」
「こ……こらっ! 儂のセリフがなくなったではないかっ! 分身時は、ちゃんと配分を考えて話すのじゃ!」
「前言撤回! 代表者一人が話しなさいっ!」
生真面目な性分のアリスは、人を食った態度の六日見狐六体にからかわれ、激しく地団駄を踏む。
その軽やかで力強い地団駄を見ながら、いよいよ本物の愛里が繁みから登場──。
「……ふふっ、ずいぶんと元気そうじゃない。老いてなお、ますます盛ん……ね?」
「愛里っ……!」
愛里にとっては三カ月ぶり。
アリスにとっては一年ぶり。
時の流れに四倍の差がある二つの世界をまたいで、十七歳時と十四歳時に愛を紡ぎ合った二人が、初めて日本での邂逅を果たす──。
愛里が照れくさそうに頭髪を掻きながら、アリスの正面に立った。
「アリスにはもう、戦いに加わってほしくなかったんだけどさ……。わたしの偽者が現れたんじゃあ……しょうがないか」
「なにを言うの、愛里。わたくしは一生軍人。あなただけのために戦う……私兵よ」
藪に囲まれた軍事施設跡の荒れ地で、見つめ合う二人。
性別をも、時をも、世界をも超え、三度出会う恋人たち。
しかし無粋にも、六日見狐が感動の再会に口を挟んだ──。
「目にした瞬間に駆け寄り」
「強く抱き寄せ」
「名を耳元で囁き」
「熱い口づけ……」
「……せぬではないか。ホラ吹きめが」
「じゃから儂にもセリフを残せと言うておる!」
同じ顔を六つ並べて、がやがやと茶化す六体の六日見狐。
アリスが正面へ仁王立ちし、六体を一纏めで睨みつけながら開口。
「そ……それは、あなたたち野次馬……もとい野次
「アリス……。それってただの、アンタの願望でしょ……」
アリスが視線を上方へ掲げて、陶酔の表情で被虐願望を継続。
愛里は呆れ顔で、その右肩を掴んで現実へ引き戻そうとする。
六日見狐はその様子を見ながら、無作為で六体おのおのが顔を見合わせた。
「ほうほう、この鼻が利く女」
「変化の術は通じぬが」
「視覚的には」
「惑わすことが」
「で」
「きそうじゃのう! どうじゃ! 今度はハブられなかったのじゃ!」
──ポンッ!
──ポンッ!
──ポンッ!
──ポンッ!
──ポンッ!
──ポンッ!
六日見狐が再び、六人の愛里へと変化。
しかし今度は、六人それぞれが異なる衣装を着用。
六人が一列に並び、右端から順に衣装の説明を始める。
「鼻が利くお主、アリスという名だそうじゃな。じゃから儂もアリスファッションをしてみたぞい。三十路女のアリスファッション、なかなかに痛々しかろう?」
「儂はバニーガールじゃ。アリスはウサギを追うのが仕事じゃからのう。逆バニーも考えたが、この体型ではちと厳しいと思うての?」
「儂は丸山太夫。これは儂本来の衣装じゃな。昔悪い人間の男に、騙されて売り飛ばされたことがあってのう。ま、一番の被害者は、妖狐を買わされた遊女屋じゃが」
「儂はマイクロビキニ。乳輪が見えるか見えないかのギリギリを攻めておるぞ。乳輪がはみ出ているものは、あざとすぎてのう。デカ乳輪体質ならば、話は別じゃが」
「儂は巫女装束じゃ。一応、お稲荷様にも縁故があっての。アリスの格好がシスター装束っぽいので、対抗してみたぞい」
「儂は先ほどと同じで、愛里の格好まんま。じゃが、そばかすを消してみた。AVのパッケージで、ほくろが消されているようなものじゃな。にょほほほっ!」
様々な衣装の愛里が、横一列に立ち並ぶ。
紐のような水着から、豪華絢爛な遊女の着物まで、統一性皆無のラインアップ。
容姿を勝手にいじられる格好の愛里は、手を添えていたアリスの肩を掴んで押しのけ、その前に出て怒りを露にした。
「あ……アンタらねぇ……。
「「「「「「にょほほほほっ! まあそう怒るでない。エロゲーのヒロインでも、ここまで衣装差分に恵まれているキャラは、そうはおらんじゃろ? 現にアリスは、うれしそうではないか? の?」」」」」」
「ええぇ……?」
愛里が振り向くと、そこには顔をきょろきょろと左右へ動かしながら、多種多様な衣装の愛里たちを凝視するアリス。
「あ、あら……。愛里って意外と、フリフリの衣装も似合うのね……。そばかすがない顔は……ちょっと物足りない気もするけれど……悪くはないわね♥」
「あーもー……。化け狐対策の嗅覚なのに、見た目でたぶらかされたら意味ないじゃない……。えーっと、ラネットたちの護衛に一人、ステラはほかの強敵に温存するとして…………リムッ!」
愛里が指を折り数えながら、自分の偽者六人の列の向こうにいるリムへと、ドスの利いた呼びかけ。
「は、はいっ!」
「近接戦要員、追加で四人召喚っ! このめんどくさ~い化け狐……まとめて一気に叩くわ!」
「四人ですねっ、わかりましたっ! ということは……オリジナルのチームとんこつ、再集結ですねっ!」
リムの筆先が、軽やかに動く。
ルシャ・ランドール。
リム、ラネットとともに、替え玉受験をはたらいたチームとんこつの一人。
一呼吸でルシャを描き終えたリムは、続けざまに次の紙へ、その恋人を描く。
セリ・クルーガー、四角い銀縁眼鏡が似合う剛剣の麗人。
「……よしっ!」
描き上げたリムの正面に、一本の光の柱が立つ。
先ほどアリスを連れてきた光の柱よりも、それは若干太い。
その中から、ルシャとセリが並んで現れる。
ルシャは黒いメイド服一式と白いソックス、そして左腰に長剣と鞘。
セリは胸元が大胆に開いたパーティードレス風の黒い戦闘服に、左腰に長剣と鞘。
並ぶ二人の傍目からの印象は、令嬢剣士とその
正面のリムに気づいたルシャが、すっとんきょうな声を上げた。
「……あれぇ? リムじゃん、久しぶりぃ!」
「ルシャさんっ! お久しぶりですっ!」
「おまえの漫画、読んでっぜ! まぁ連載多すぎるから、全部は無理だけどな! ところでいつ来たんだ?」
「えっ……? 来た?」
「遊びに来るなら来るで、先に手紙くらいくれよな。あと、入るときは正門から……って。んん? こんな酷い藪、うちの庭にあったか? なんだこりゃ?」
「ああっ……そうでした! ルシャさんは蟲の一件のあと、セリさんの家で
セリの屋敷の裏庭で、剣の稽古をしていた二人。
唐突に召喚され、事情はいっさいわからない。
周囲をくるりと見渡したルシャが、高く裏返った声を再度上げる──。
「おっ、師匠! また来てたんだな……って、いち、にぃ、さん、しぃ…………師匠が七人もいるぞおいっ! 師匠って七つ子だったのかよっ!」
「あー……これは説明に時間かかりそうですねぇ。さ……先に残りの二人を、描いちゃいましょうか……。アハッ、アハハハ……」
替え玉受験時、チームメイトやライバル受験者相手にリムがよく上げていた苦笑。
リムは肺から搾り出されるような苦笑いの感触を懐かしみながらも、筆を走らせて新たな兵士を召喚し始める──。
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