第048話 陸軍戦姫團・歩兵隊 シャガーノ・モーブル

 ──白い光の柱が立ち、その中から新たに一人の少女。


「……やれやれ。ようやくこのわたし、シャガーノ・モーブルの出番ね?」


 ステラたちの同期入團にして、しばしば試験進行や戦況を掻き乱した、かつての受験者の一人、シャガーノ・モーブル。

 最下位ながらも、乙女たちの憧れ、陸軍戦姫團への入團試験に合格した才女。

 しかし同期に、ステラ、フィルルという圧倒的な才媛がいたばかりか、カナン、ディーナ、ナホという癖の強い受験者が揃った世代において、相当に地味な存在。

 それでもプライドの高さは人並み以上で、今回の異世界転移劇、当然自身も選抜されると高をくくっていた──。


「次々と同期が光に包まれて消えるから、焦ったけれど……。まあこのわたしが、外されるわけはないわね。フィルルから厳戒態勢の命令が出たときは、バカじゃないの……って思ったけれど、念のためフル装備にしておいてよかったわ!」


 陸軍服、身体の要所を護る防具、右腰に備えた鋼鉄製の長剣。

 それらに身を包んでいたシャガーノは、自身がいま立つを、ゆっくりと首を回して見渡した。


「素掘りの外濠そとぼりに、木製の柵に、火点の土塁……。陣地構築はすんでいるみたいだけれど、いくさはまだのようね」


 コンクリート舗装も石畳もない、土面だけが広がる一帯。

 そこを慎重に歩きつつ、シャガーノが苦笑。


「しかしまあ、なんと質素な世界なのでしょう。建物はオール木造。屋根は藁葺わらぶきやら茅葺かやぶきやら。こちらに無数に転がっているのは……まさか甕棺かめかんっ? 戦死者用っ?」


 人為的な窪地に、乱雑に置かれた甕棺の数々。

 戦死者の遺体を収容するものだと、シャガーノは判断。


「戦姫の世界では、いまだこのような土葬を行っているのっ? わたしたちの世界の、千年以上前の文化水準じゃないっ! なんとまあこっけいな!」


 ──シャガーノが召喚された場所。

 それは拾体の下僕獣が顕現した長崎県……の隣り、佐賀県。

 弥生時代のムラの遺跡を公園化した、吉野ヶ里歴史公園。

 その中心部。

 遺跡の発掘調査後に再現された、当時の邑の施設群を眺めながら、シャガーノは高笑い。


「オーホホホッ! まさか伝説の戦姫の故郷が、こんな土木の世界とはっ! ここならばわたしは、未来人も同然っ! 未知の戦術と剣術で活躍し、いまこそ最下位入團の汚名をそそぎましょう! 捲土重来けんどちょうらいの大チャンス!」


 シャガーノが右腰の長剣を鞘から抜き、水平に一閃。

 青白い光の剣筋が、佐賀県東部の青空の下に、勇ましくはしる。

 左手に握る長剣はペーパーナイフのように軽く、くうを斬る手ごたえは大木を切断するかのごとく力強し──。

 それを心身に覚えたシャガーノは、高笑いに嬌声を重ねた。


「お、おお……! これが戦姫の力……戦姫補正っ! これさえあれば、蟲の軍勢との戦いで逃げまどった黒歴史を塗り潰せるっ! さあこの世界の敵よ、わが前に姿を現さんっ! あまさず成敗しますっ! オホホホホッ!」


 シャガーノ・モーブル。

 その高笑いが、召喚のによって現わされた地で、天高く響いた──。

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