第042話 陸軍戦姫團・歩兵隊 カナン・トランティニャン
──大村市・海上自衛隊大村航空基地。
その海沿いの長い敷地中央に顕現した下僕獣、霊獣・
モスキート音と黒板を引っ掻く音を混ぜ合わせたような不快な響きの歌声が、基地の計器を狂わせ、周辺に悪天候を誘う。
運用している哨戒機は無力化し、すべての通信網が麻痺。
その混乱は、隣接する陸上自衛隊竹松駐屯地でも同様。
駐屯地内では、小銃による精霊風の討伐が論じられていた──。
「……司令っ、どう考えてもあの女は人間ではありませんっ! 佐世保には巨大な怪鳥も出現しているとか! 一刻も早く、われわれの防空機能を回復させねば!」
「……うむ。だがあの女に、どう接近する? 周囲は暴風雨に落雷。運よく雷を避けられたとしても、あの状況で的を射るのは至難。それにあの歌声……距離があるここでも、鼓膜が破れそうだ。接近すれば……恐らく意識が飛ぶぞっ!」
「し……しかしっ!」
──カッ!
精霊風が上空に創り出した暗雲を割いて、三本の光の柱が下りてくる。
精霊風を中心に、正三角形を描いて生じた柱の中からは、柔らかく、甘く、そして幼い歌声が流れ出す──。
「──
「──
「──キミの笑顔に出会えたこの日が♪ わたしたちの
ふわふわとした柔らかな歌声が、精霊風の不快な歌声を封じ込めた。
そして地に及んだ光の柱から、同じ顔をした三人の金髪少女が現れる。
カナン・トランティニャン、ポニーテール、陸軍戦姫團・歩兵隊所属。
イクサ・トランティニャン、左サイドテール、陸軍研究團・異能「念」。
シャロム・トランティニャン、右サイドテール、陸軍研究團・異能「念」。
老若男女を問わず魅了するスイートボイスの持ち主であるカナンと、その三つ子の姉であるイクサ、シャロム。
三人の歌が精霊風の瘴気を抑え、周辺の通信網を回復させた。
大村航空基地内でも、通信手段の復帰を把握──。
「……司令っ! あの少女たちはっ!?」
「恐らく味方だろう! いま各地から、未知の侵略者に対抗する少女たちの目撃情報が、続々と入っている! きっとその一派だ!」
「でも、いきなり空から現れたんですよっ!? いまのところこちらへの加害は認められませんが……味方と判断するのは、早計ではっ!?」
「いや……味方だっ! なぜなら……かわいいっ♥ 歌もいいっ♥」
「司令っ!?」
「かわいいは正義っ! 一時、なりゆきを見守れ! 竹松駐屯地にもそう伝えろ!」
海自大村航空基地司令からの鶴の一声で、小銃での攻撃に待ったがかかる。
(※注・本作品はフィクションです。関係各所への通報はご遠慮ください)
長剣を抜いたカナン三姉妹が、歌唱を止めた精霊風を囲った。
まず声を発したのは、
「……奴の音痴は防いだ。だが、天候を操る能力は健在のようだ。見ろっ!」
一帯の上空は、いまだ雨雲に覆われたまま。
殴りつける雨が、容赦なく三つ子の体を冷やす。
チャームポイントの長髪は濡れてしおれ、ステージ上での軽快な舞を見せない。
末広がりのスカートは、若くしなやかな太腿へと、ぺたりと張りつく。
衣服は透け、三つ子の白いブラジャーとショーツの輪郭を、うっすらと浮かべた。
悪天候に全身を覆われ、小柄な身をふるふると揺らす三つ子の姿を見、海自大村航空基地司令がその身を案じる。
「おおっ……透けブラっ! そして透けパンっ!」
「司令っ!」
(※注・重ね重ね申し上げますが、本作品はフィクションです。関係各所への通報は、なにとぞご遠慮ください)
しかし三つ子は、同司令の
あどけなくとも、少女であろうとも、三人はれっきとした、国防を担う軍人。
元の世界で、蟲との戦闘も経験している。
姉二人からカナンへの一方通行ながら、
三つ子は風雨に惑わされず剣を握り締め、精霊風を討つタイミングを計る。
拮抗の中で不意に、暗雲の中の三点で、発光が生じた──。
「危ないっ! シャロムっ! カナンっ!」
発声が始まった瞬間、三姉妹が同時に後方へ飛びのく。
三つ子が生まれながらに有していた不完全な
いま三つ子は、三人で一人。
完全なる
回避の直後、三姉妹がそれまで立っていた場所に落雷。
芝生が真っ黒に変色したあと、光より遅れて轟音が生じる。
──ゴオオオオオォンッ!
わが身を抱いて、空気と大地を揺らす震動から身を守る三姉妹。
一方の精霊風は、あたかも無風の中へ身を置いているかのように冷静、優雅。
瞳を伏せたままの、落ち着いた大人の女性の顔を見せている。
ただただ背後に従えている、渦巻く暗黒の瘴気だけが、邪気を高めるのみ。
落雷と轟音に驚いたカナンが、姉二人へ泣き声を投げた。
「ふええぇええぇええんっ! イクサちゃん! シャロムちゃん! これって、お空を相手にしてるようなものだよぉ! カナンたち……本当に勝てるのぉ!?」
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