第037話 陸軍戦姫團・砲隊長 ノア・グレジオ
──ドドドドドドッ!
神の島公園の広場でまばゆく輝く、三本の光の柱。
それらが土中に
発光の中から砲隊長・ノアと、四八式野砲の四基が姿を現す。
四八式とは「戦姫團発足から四十八年目の年式」の意味であり、旧日本軍の兵器につけられていた皇紀の年式とは異なる。
「ほぉ……ここが戦姫の世界か。われら陸軍戦姫團砲隊を呼びつけるとは、それなりの相手がいるのだろうなァ! ……むッ!?」
己の背後に居並んでいた野砲群を肩越しに見て、ノアが驚きの声を発した。
野砲は戦姫補正により、榴弾砲に匹敵する火力を得た、大口径と化している。
「おおっ! われらが
野砲群に体を向け、左拳を突き上げて興奮するノア。
その声を聴音壕のトーンがキャッチし、愛里たちへと伝達。
愛里が判断を下し、一旦それをステラに委ねる。
そして戦姫團副團長・ステラの命令として、ラネットが肉声で伝令──。
「砲隊長っ! 先に来ている副團長からの指示です! 海上にいる巨大なカメの上陸を、陸上からの砲撃で足止めしてくださいっ! そしてもし倒せそうなら、そのまま倒してくださいっ!」
「おッ! 研究團の『声』かッ! さすがによく声が通るなッ! そして『耳』が、わたしの声を拾っているのだなッ! うむ、任せておけッ!」
「それからこれは、戦姫……愛里さんからなんですけど……。この世界の艦隊が、じきに亀の迎撃に来るはずなので、それは絶対に狙うな……とのことです」
「わ……わかっているッ! いくらわたしが海軍嫌いとて、国防の同胞に射線を向けるものかッ!
過去、ノアの海軍嫌いが原因の騒動を、愛里が肉弾戦で鎮圧している。
その際愛里は、「戦争に陸も海もない。あるのは悲惨だけ」と説諭。
それを思い出したノアはバツが悪い表情を浮かべ、会話を終了。
高台であるこの公園へ避難してきた市民たちの間を縫って、港湾部を見渡せる展望台へと上がる。
ノアのいかつい顔と体つき、そして異世界製とは言え一目で軍服とわかるそのいで立ちに、展望台から阿鼻亀を撮影している男たちが場を譲った。
「……この世界の民間人か。いましばらく、この見張り所を借りるぞ」
軍人の威厳と迫力に満ちたノアの顔を受け、男たちは無言で首を縦に振る。
長崎港へと迫る阿鼻亀の巨大な甲羅が、ノアの眼下で航跡を引いている──。
「あれがカメか……まるで島だな。あんな化け物がいるとは、戦姫の世界も難儀なことだ。道理で蟲などものともせぬはず。さて……陸軍戦姫團砲隊の、鍛えに鍛えた練度……。異世界の民に示してやろうぞッ!
──ドオオオオォンッ!
──ドオオオオォンッ!
ノアの号令に呼応し、戦姫團の虎の子の武装、四八式野砲が火を噴く。
砲撃手、測距、装填の兵の姿はないが、砲隊のそれらの練度が野砲の機構に反映されており、射線の調整、次弾の装填が
砲弾が阿鼻亀の甲羅、および周囲の海面へ次々に着弾。
甲羅に火柱、海面に水柱を、交互に立てる。
攻撃を受けた阿鼻亀は、脚をすべて甲羅へ収納し、移動を止めて防御姿勢。
一連の出来事を見た二十歳ほどの男性市民が、恐る恐るノアへと声をかける。
「あ、あの……。お姉さんは、わたしたちの味方……ですか?」
「ハハッ、さあどうだかな。だが、この世界のある女に、大きな借りがある。ゆえに一時的な同盟と言っておこうかッ!
──ドオオオオォンッ!
──ドオオオオォンッ!
ノアが左手を勇ましく宙へ突き出し、号令。
その様子を、展望台の端で身を寄せていた男性市民たちが、SNSで実況する。
「ミリタリー風お姉さんが突然現れて、カメを攻撃し始めたぞ!」
「どうやら俺たちの味方らしい!」
「軍を名乗ってたぞ! 陸軍……センキダン、だとか!」
「個人的に、なかなかのマッチョ美人!」
──愛里は自陣から見える海上の戦況と、SNSの反応を見てほくそ笑む。
「ふっふっふっ……。わたしたちが味方だって、広めてもらえてありがたいわ。さーて、この土地の歴女が、適材適所で異世界の戦姫をナビゲートするわよ! 拾体の下僕獣とやらがナンボのもんじゃい!」
「……師匠さん」
「なあに、天音?」
「あなたは『異世界の
「そうだけど?」
「さっきボクに、この戦いを通じて島原の乱をいま一度世に広めよ……と言ったように、あなたもまた、この地の戦史を世界に広めようとしているんじゃないですか? もう二度と、都市中に軍の施設があるような世界にしてはならない……と」
「ふふっ、さすが天草四郎……って言ってあげたいけれど、それじゃあ五〇点かな」
「えっ?」
「リムたちの世界はね、この世界の百年ほど前の文明水準……。そうね、ちょうどいま砲撃行ってる神ノ島の要塞が、築かれた時代辺りかしら。これから航空機が生まれて、空母が造られて、空からの侵略が可能になって……。いずれ……」
「……第三の被爆地が、リムの世界に生じるかもしれない。そういうことですか?」
「考えたくもないけれど、考えなくちゃいけない。それが二つの世界を知ってるわたしの義務。だからあの子たちには、それを学んで帰ってほしいの。もしも向こうで戦火が起きても、それを小さなうちに、あの子たちに消してもらいたいわけ」
「ハハッ……。まったく……大したラーメン屋さんですね、師匠さんは!」
「天音たち、先人の
「マルク・マリー・ド・ロ神父ですね」
「さすが神の御使い、勉強済みか。実はわたし、家系的に
「へえぇ……!」
「ま、わたしは無神論者なんだけど。一応アンタの、延長線上の存在ってわけ。さっきの質問の答、これでよくない?」
「……ありがとうございますっ!」
天音は不思議な
(強き想いと行動は……必ず未来へと繋がるんだ! だから師匠さんの言うとおり、たらればで振り返る必要なんてないっ! いまをただ、強く真摯に生きるのみっ!)
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