第030話 重鎧巨兵ナルザーク(アニメ化希望)
停止した観覧車の、ゴンドラの上──。
地上七〇メートルで対峙する、ステラと六日見狐。
ステラがいかにもうさんくさそうな目つきで、六日見狐を睨む。
「化獣……? 六日……見狐?」
「簡潔に自己紹介するならば、『のじゃロリババア妖狐』かのう。うむっ!」
「簡潔とは言い難いですね。ババアという認識でいいですか?」
「ならんっ! ロリババアは単語じゃ! ……いや待て? のじゃロリも単語じゃから、やはり『のじゃロリ』『ババア』『妖狐』の区切りかの……?」
「……ひとまず敵と認識します」
「ああ、それは構わんぞい。もっともわしは諜報活動メインで、かつ穏健派じゃが。ここへ来たのも、見せてもらおうかの、異世界の巨大ロボットの性能とやらを……という物見遊山じゃ。にょほ!」
「この女……どこかお師様に似ている気がします。
「ほうほう。大鎌使いで、師を『お師様』呼びか! 『ちるらん』の左之助みたいじゃのう。これからは語尾を『ぞえ』にするがよ…………おおっと!」
──カッ!
六日見狐が駄弁りを中断し、高下駄でゴンドラの屋根を蹴って、垂直に跳躍。
六本の尾を羽ばたかせて滞空時間を稼ぐ。
それまで六日見狐が立っていた位置に、日本刀が突き上げられていた──。
「その刀、島原の神気じゃな! 安楽女が抜刀を封じていたはずじゃが?」
「おまえが振り下ろした鎌の刃が、目の前にあったからさ! それでクモの糸を断たせてもらったよ! 安楽女の糸、戦姫の力とやらで切れるようだねっ!」
ゴンドラの屋根が正方形に切り抜かれ、その鉄板を真上に蹴り上げて天音が登場。
宙へ躍り出ると同時に、
「ステラ、パスッ!」
「助かります! 妹弟子っ!」
「い……妹弟子ぃ? 序列的には、そうなるの……かなぁ?」
ステラは
飛び込みの体勢から全身を高速で前転させ、宙を突き進む大技、富嶽断を放つ──。
「──富嶽断っ!」
蒼い球体と化したステラが、六本の尾をジャイロのように回転させて滞空する六日見狐へと斬りかかった。
六日見狐は迫るステラに対し、落ち着いた表情。
「まるで
ステラの回転斬りが六日見狐へ達する瞬間──。
六日見狐の姿が六体に分身。
それらが放射状に散開し、ステラの攻撃を回避。
「なにっ!?」
一体につき一尾となった六体の六日見狐が、それぞれ異なるゴンドラへ着地。
同じ笑顔を等間隔に並べて、声を合わせて高笑い。
「「「「「「にょほほほっ! この観覧車も、そろそろ限界のようじゃ。わしは安全なところから、おぬしらがどうさばくか見物するかの!」」」」」」
六体の六日見狐が散り散りに、建物の陰や地上へ移動。
直後、観覧車全体が激しく揺れた。
──ガゴオオオォンッ!
安楽女の糸で全体をがんじがらめにされていた観覧車が、回転を継続しようとした結果、車軸が破断。
バランスを失った観覧車は、国道側へとゆっくり傾きだす。
あちこちのゴンドラから、悲痛な絶叫が上がる。
いまだ滞空中のステラが、巨大な重鎧内のナホへ、副團長として命令──。
「ナホッ! 観覧車を支えて、地面へ下ろしてくださいっ!」
「あ、えと……観覧車ってあれですよねっ! わかりましたっ!」
ナホがいま立つのは、重鎧兵の頭部内にある、直径三メートルほどの空間。
鋼鉄の壁に囲まれたそこには、中央に正方形の赤いじゅうたんが敷かれてあり、その上でナホが動くと、重鎧の巨兵が同様の動きを取った。
ナホは床のメッシュ状になっている箇所から、足元を確認しつつ慎重に移動。
「うう……人、踏んづけないようにしなきゃ……。というかどうしてわたし、こんなおっきな
ナホは突然放り込まれた異常事態に半泣きになりながらも、両腕を大きく広げて観覧車をキャッチ。
その倒壊を防ぐ。
「こ、この揺りかごみたいなのの中に、人いるんですよね? そっと……そーっと」
重鎧の巨兵は、丁寧に観覧車を水平へと傾け、交差点に寝かせようとする。
しかしリムのゴンドラだけは、天音が天井を切り裂いたために屋根がない。
その穴から、リムは宙へと放り出されそうになる──。
「きゃあああぁあああっ!」
「姉弟子っ!」
ステラが巨兵の体を駆け下りながら、落下するリムと画材の鞄を
肩を抱きかかえたのち、跳躍で重鎧の巨体をスムーズに上っていく。
「……ステラさんっ、ありがとうございましたあああっ! それにしても、無茶苦茶な移動されてましたねっ!?」
「この重鎧は戦姫團の武具です。構造を知り尽くしていますから、それがそのまま巨大化したものを移動するのは、造作ありません」
「な、なるほど……なのかな?」
ステラとリムは、巨兵の頭頂部から跳躍し、先ほどまでいた屋上庭園へ復帰。
そこには、右衛門作の真正面で腕組みをして立つ、安楽女の姿があった──。
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