第九回 暴走する正しい倫理

テーマ『譛峨j菴吶k螟「縺ョ繧ォ繧ケ』


 ついに自分の部屋にテレビが置けるようになった俺は、今までリビングに置いていた自身のBlu-rayを自室へ移動することにした。だってそのほうが部屋にこもりっきりで映画が観れるだろ?

 そのため、土日を利用して俺は部屋にテレビとBlu-rayを置くスペースを作ることにした。テレビを置くスペースは簡単に確保できた。ベッドに寝ころびながらも観れる位置だ。次はBlu-rayを置くスペースで、これが問題だった。ますはBlu-rayを置くための棚を買う。親が金を出してくれたこともあり、これは難なくクリア。なので本当の問題はここからだ。

 「棚を置く場所がねぇー」

 そう、肝心の部屋に棚を置く場所がなかったので。そこで俺は今まで顔を背け続けていた、部屋の掃除をすることにした。

 ゴミ袋を持ってきて、ます捨てるものがあるとするならばここだ、と俺はクローゼットを開けてクリアボックスを引きずり出す。ここにはもう全然使っていない子供のころのおもちゃをしまってまる。とりあえずここにあるものを処分して、別のものをこのクリアボックスに入れればそれなりのスペースは確保できるだろう。クリアボックスの蓋を開け、俺は迷わずに片っ端からゴミ袋へおもちゃを投げ込んでいく。

 「ホマレ、おやつにしないかい?」

 ゴミ袋にゴミを入れるだけの単純作業をしていたら、ノックの音とともにライアンの声がした。部屋の扉は開けっ放しなので、ライアンが顔を覗かせる。

 「掃除中だったんだね」

 「ん、まあ」

 そろそろ終わるけどな。

 「よかったらわたしも手伝おう。こう見えて掃除は得意なんだ」

 確かにライアンは掃除が得意だ。具体的に言うと、日々の家の掃除は母親がライアンに任せている。なので俺の部屋も掃除機をかけたり、モップをかけてほこりをとったりしているのだろう。その間、俺は学校に行っているので見たことはないが。

 「もう終わるし平気」

 そう答えて、俺はゴミ捨てを再開する。最後の一つになったとき、まだ部屋にいたらしいライアンが口を開いた。

 「それはなんだい?」

 どうやら俺が手にしているおもちゃが気になったようだ。そう言えば俺も何を捨てているのか確認せずにゴミ袋に入れていたと思い出し、持っているおもちゃを見る。

 「ガキの頃のおもちゃ。これは、あー……この前見た、貴族の娘が王子様と恋に落ちてお姫様になるやつに出てくる、えーっと、カボチャでできた馬車のおもちゃだよ」

 普通ならシンデレラに出てくるカボチャの馬車で通じるのだが、まだシンデレラを履修したばかりのライアンには作品のタイトルではなく内容で説明したほうが通じるだろう。そう説明すれば、ライアンはわかったのか「あれだね」と言った。

「しかし、ホマレにとってそれは捨ててもいいものなのかい?」

「えっ、なんで?」

 予想外のライアンの発言に、ゴミ袋に入れようとしていた俺の手が止まる。なんでゴミが捨てるのはよくないものなんだ。

 「ホマレの意思を否定しているのではないよ。ただ、ホマレが大好きなプリンセスの玩具を捨ててもいいのかな、と思ったんだ」

 お姫様のおもちゃ。ライアンのその言葉は、俺の心に深く突き刺さった。そうだ、これは俺の大好きで大切なお姫様が、お姫様になるためのキーアイテムだ。ゴミ袋に入っているほかのゴミを全部袋から取り出す。あぁ、これも、これも、それも、全部そうだ。

 お姫様に変身させる魔法のステッキ、毒リンゴ、お姫様と一緒にいる動物のぬいぐるみ、プラスチックでできたガラスの靴、ドラゴンのおもちゃ、魔法のランプ。どれもこれも、子供の頃に、親から買ってもらったおとぎ話に出てくるおもちゃばかりだった。俺にとって、お姫様になるために必要な夢がつまったおもちゃだ。

 「どうしたんだい? ゴミ袋が足りないのなら、わたしがもってこよう」

 「やっぱ捨てない」

 優しい提案をしてくれたライアンの言葉に、間髪入れずに俺は言う。ただのゴミだと思っていたおもちゃが、ちゃんと見れば大切なものばかりだった。だから子供の頃の俺は、大事にしまい込んでいたんだ。ライアンと出会う前の俺なら、それを認識した上でいつまでも夢は見ていられないと捨てただろう。でも今の俺じゃ捨てられない。まだ、夢を見ていたいのだ。

 「なぁ、これ全部箱に戻したら、部屋の片づけ手伝ってもらってもいいか?」

 きっとライアンなら、俺にとって何が大切かを気付かせてくれる、そう思った。もう俺じゃ正しくものを判断できない。だって捨てたら後悔するものをためらいなく捨てようとしていたんだ。

 ——危なかった。

 息を吐いて安堵していると、ライアンは返事をした。

 「君が望むなら、いくらでも」

 ライアンが優しく微笑みながら、そう言う。

 やっぱり、ほら、王子様はいつだってお姫様の危機に駆けつけてくれる。少しずつ、俺はライアンのおかげでお姫様になれている、そんな気がした。

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