第十回 きっと未来を信じてる

テーマ『有象無象の群衆未来』


 地獄の六時間目がようやく終わり、俺は大きくあくびをしながらホームルームが終わるのを待つ。特段たいしたこともないため、早く帰りてーなぁ、なんてことしか考えられない。いや、まぁね、帰ったら宿題はあるけど放課後はいつだって待ち遠しいものじゃん?

 ぼーっとしていたらホームルームが終わり、クラスの皆が部活やら帰宅やらで教室を出ていく。俺も帰るか~、なんて思いながら鞄を持って立ち上がると、クラスメイトが「やべーぞ、都!」と興奮気味に俺に駆け寄ってきた。

 「なんだよ、俺はもう帰るんだぞ」

 呆れ交じりの俺に対して、声をかけてきたクラスメイトは鼻息荒くこう言った。

 「またあの美少女が来てるぞ!」

 またあの美少女。……ライアンか。

 俺に用事がある美少女なんて、世界中を探してもきっとライアンしか存在しないので少し考えたらすぐにわかった。この前の一件でライアンには用事がない限り学校には来ないように言い聞かせていたし、ライアン自身も律儀に守っていたというのにどうしたのだろう。頭を悩ませながら校門へ向かう。クラスメイトが早くしろってうるさいが、俺はそれを気にも留めずにゆっくり歩く。

 校門には人だかりができており、その中心には案の定以前買った外出用しまむらジャージを着たライアンがいた。学校中の男女がライアンに興味津々で、なにやらライアンに話しかけている。ライアンは柔らかく微笑みながら、返事をしていた。王子様って大変だなと俺は思いつつ、ライアンの名前を呼んだ。

 「ライアーン」

 人込みをかき分けてまで行く勇気も気力もないため、輪から少し離れたところでよんだが、ライアンには俺の声は届いたみたいだ。

 「ホマレ! 待っていたよ」

すると今の一瞬で俺を見つけたのか、ライアンは人込みをきれいにかきわけて俺の元へたどり着いた。人の目が一気にライアンだけから、ライアンと俺の二人へと集まる当然のように俺の手を取り、指先に口付けをしたライアンは、さっきまでとはまったく違う、花が咲いたように明るくて、かわいいの中にも凛々しいがある微笑みを浮かべた。

 「さぁ、帰ろうか。私のプリンセス」

 プリンセスと呼ばれたことが嬉しくて、俺はつい口の端が待ちあがる。

 「お前が学校に来た理由はあとで聞くとして、そうだな、帰るか」

 「あ……それは。えっと……」

 気まずそうに視線を逸らすライアンに、てめぇまさか何の用事もなく来やがったのか? となる。

 「よし、帰ろう!」

 話題を強制的に終わらせたライアンがそう言って、俺の手を引きながら人込みから抜け出す。そしてそのまま、振り向かずに二人で走っていく。それはまるで、逃避行のようで、少しだけ楽しいと思えてしまう。

 きっと俺の未来は、このままライアンとくだらない日常を過ごしながら暮らしていくんだと思うと、嬉しくて仕方がなかった。大きくなった俺のもとに、お姫様にしてくれる王子様が現れるんだぞって子供の頃の俺に伝えたい。そして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、なんて、おとぎ話の主人公のようなエンディングを迎えられると願って、俺はライアンの手を強く握りしめた。

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