第24話 成長

 「じゃあ、前回はハンデ与えすぎて負けたと思うから今回はせめてキャラだけは好きに使わせて?」

 「まあいいでしょう、でも武器は前回と固定でお願いします」


 「ハハハッ、こりゃあ手厳しい……」


 『タイマンきたこれwww』

 『前回はガードナー使ってもらってたし、大きなハンデもあったからな』

 『今回はどっちが勝つかわかんねぇぞ!www』


 コメントの盛り上がりを見たところで俺は水無瀬さんの配信を閉じた。

 水無瀬さんの配信を付けているとタイマン時に水無瀬さんの画面が映って正確な位置が分かってしまう。

 一種のゴースティングをしているのと同じだし、元プロである俺がそんなことをすると普通に炎上する。

 配信していないのだからバレないだろと思う人もいるかもしれないが、配信者とはいつどこで悪事がバレるか分からないからな。


 余談だが、悪事がどこでバレるか分からないと言ったが世間一般体で悪いと言われる事をした覚えはないので安心してほしい。


 HEROXを開き、水無瀬さんのパーティに入った。

 そしてそのまま射撃場に足を運び、タイマン場と呼ばれている無数の遮蔽物が置かれているフィールドまで移動した。

 前回と違う点は俺の仕様キャラガードナーからヴォイドになっただけ。

 水無瀬さんが使用している武器、キャラ共に同じで俺の使用武器も前回と同様だ。


 「それじゃあ、いきますか」

 「望むところです」


 水無瀬さんが空中に投げたグレネードが爆発し、タイマンはスタートした。


 「あれから一週間、私は猛特訓したんですから!」

 

 水無瀬さんの操作するヒールランナーがもの凄いスピードで俺に迫って来た。

 まずはお得意のエッジスライドを使用して来たか、ここまでは想定通り。

 

 「うおっ、タップストレイフも覚えたんですか!」

 「ふふっ、負けてばかりの私じゃないんですよ!」


 水無瀬さんの動かしているヒールランナーはエッジスライドの加速を利用し、タップストレイフで俺の後ろを取った。

 そしてお得意のAceTryを俺の動かすヴォイドに打ち込むが、俺はそれに反応し瞬時に振り向き正確にサンセットの弾を撃ち込んだ。

 ヘッドショット一発、胴体三発でヒールランナーをダウンさせ、俺は自決した。


 「えぇうそ! 確実に背後を取ってちゃんとAIMも合ってたのに!」

 「まあまあ、これが実力の差ってもんですよ。確かに動きは前回と比べて格段に良くなってますし、タップストレイフを習得してたのには驚きました。でもまだまだですね」


 「くっそ、もう一回、もう一回やりましょ!」

 「なんぼでも付き合いますよ」


 こうして水無瀬さんの気が済むまでタイマンをした。

 彼女の動きは一週間前とは別人のようなものだった。

 エッジスライドからの切り込み時、大体の人はエッジスライドの加速に着いて行けずにAIMが置いてかれて大体銃弾は相手に当たらない。

 それなのに彼女は正確に当てて来るし、俺がタップストレイフをして被弾を避けようとしても必ずアーマーは割られる。

 もしも女子限定の大会があるのならば彼女は必ず優勝候補として名を上げるだろうし、女子に限らず今の彼女はプロの世界でも通用するレベルだ。

 俺はとんでもない大きさのダイヤの原石を見つけてしまったのかもしれない。


 「いやマジで一週間前とは比べ物にならないですよ。近々大会とか無いんですか?」

 「大会ですか? 一応誘われてるのはありますけど出ようか迷ってて……」


 「俺が水無瀬さんの専属コーチになるって言ったら出ますか?」

 「え、ほんとですか?」


 水無瀬さんは気の抜けた声で答える。

 今の彼女の実力ならばまだまだ伸びしろはありそうだし、彼女の成長をもっと近くで見てみたいと思った俺の本心から出た言葉。

 嘘偽りなく、俺は彼女をサポートしてあげたいと思ってしまった。


 「ほんとほんと。てか大会ってあれでしょ、ヘロフェスでしょ?」

 「え、そうです。もしかしてAdaさんも出るんですか?」


 ヘロフェスとは大手配信サイト【Twinkle】が主催するHEROXの大規模カジュアル大会で俺も一度だけ出た事があり、それで優勝してトロフィーを貰った。

 そして今回は優勝経験のある俺に大会見届け人として是非参加してほしいというオファーが前々から来ていたのだが、他の配信者や動画投稿者を知らないし、メンバーリストを見せてもらった所、その時はまだ未確定ではあったのだがリストの中で知っている人はnullさんしか知らなかった。

 そのため出ようか迷っていたのだが、もしも水無瀬さんが出るのならば俺としても出やすいし彼女に追っていい機会になるだろう。


 「いやあんまり詳しい事は言えないけどさ、とりあえずそういう事だよ。どうする?」

 「Adaさんが専属コーチになってくれるのは嬉しいですけど、その迷惑じゃないですよね?」


 「迷惑だったらまず声かけないし、そもそも水無瀬さんは凄く気に入ってるからかけるとしても水無瀬さんだけだよ」

 「はうっ、ふ、不意打ちずるいです!」


 「え、なんのこと?」

 「はぁ……困ったらたらしですね……なんでもありませんよ」

 

 「それで、コーチになる?」 

 「はい、お願いします。もっと強くなって有名になりたいです!」


 十分有名だろと妬みの念は抑えて、俺は仮だが水無瀬さんの専属コーチになった。

 またこうやって彼女と関われることに嬉しく思い、そして安心している自分がいた。

 どうも俺は水無瀬さんの事を固執して気に入ってしまったらしい。


 彼女のプレイには華があるしその華は会話にも出て来る。

 彼女を虐めている時も面白いしなにより反応が可愛いと思ってしまった。

 虐めている時の反応が好きなのは人としてどうなのかとも思うが、気に入ってしまったのなら仕方が無い。

 ともかく俺は、彼女のためにももう一度頑張らなければならないと思った。


 「わかりました。私Ada、水無瀬さんのために力を震わせていただきます」


 こうして俺の中にはまた一つ小さな目標が出来た。

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