第23話 二度目のタイマン

 「こんしずく~! ついにやってきました、この時が……!」


 彼女の元気な挨拶から配信は始まった。

 今回のコラボでは俺たちの得意なHEORXはやらずに、お互いの事を知ろうという事で対談形式でのコラボとなっている。

 話す内容は決まっていないが、まあそこら辺はノリと勢いで何とかなる部分だ。

 しかし、注意しなければならない部分もある。

 今回のコラボで一番敵に回してはいけないものは集まった視聴者達。

 視聴者の機嫌が悪くなったり面白くないと感じれば俺だけにはとどまらず、水無瀬さんにも被害が出る。

 そして今回、俺は配信をしていないから視聴者を頼る事はほぼ不可能。

 俺一人の力で視聴者を楽しませ、俺たちの関係を納得させなければならないのだ。


 「私の師匠であり、憧れの人物のAdaさんとのコラボが……! Adaさん、お願いします!」


 彼女が俺の入る流れを作ってくれ、俺はそれに乗る。

 サブモニターで彼女の配信を音無しで表示し、コメントの流れを見ているがとんでもないスピードだ。

 

 「あーえっと、どうも。元プロゲーマーで今はストリーマーやらせてもらってるAdaです、最近だとDO CUPで水無瀬さんのチームのコーチをやらせてもらいました、お願いします」

 

 『Adaさん来たーーーー!!!』

 『二人のやりとりめっちゃ好きなんだよなぁ』

 『このまま何事も無く進むのか?www』


 視聴者数は優に1万人を超えており、Twllterのトレンドでは【水無瀬とAda】という単語が世界3位というわけの分からない記録を出していた。

 トレンドとは一日でその単語がどれだけTwllter上に投稿されたかの順位のようなもの。

 そしてTwllterは世界中で使用されているメジャーなアプリ。

 それの世界3位なのだから、とんでもない事は誰もが一目見ただけで分かる。

 

 「Adaさんと私の出会いは運命的だったんですよね……私がTwllterでコーチを探していたら、Adaさんの方から――」

 「なわけないだろ、水無瀬さんがTwllterのDMで私のコーチをやってください、お願いしますって頼み込んで――」


 「あーもう! Adaさんのいじわる! そういう事にしておいてくださいよ!」

 「やっぱ嘘はいけないと思いまして、それに俺がSって定着しちゃったのは水無瀬さんのせいですし」


 「それは……だってAdaさんほんとにSだし、あのタイマンもAdaさんを打ち負かして私が見下してやろうと思ったのに、タイマンでは勝ったのに結局言葉で負けて私がMっぽくなっちゃったし」

 「でも、SMコラボしようって言って来たのは水無瀬さんですし、火種を撒いたのは水無瀬さんですよね?」

  

 「ぐぬぬ……それも! SMコラボでAdaさんをM側にして煽られた屈辱を晴らそうとしただけで……」

 「そして全部自分に帰って来たと……ははっ、面白いですね!」


 「あーもう! ほんとにいじわる!」


 『何だこのコラボ、めっちゃおもろいww』

 『普段キレまくってるしずくちゃんが弄ばれてるのおもろww』

 『Adaさん、返しが上手いな……』


 そしてその後もコラボは続いた。

 学生時代の話をしたり、好きなゲームの話、挙句の果てに俺の妹の話までした。

 そして水無瀬さんは何を思ったのか、妹関係の話が俺の弱点だと思い込みその話以降水無瀬さんは桜華の事に興味津々だった。


 「妹さんと一緒にお風呂に入ったり……」

 「するわけないだろ。まあでも、向こうから誘ってくることはしょっちゅうあるけど」


 『おいAda!そんな妹存在するわけないだろ!』

 『そこの席譲れや!Ada!』

 『そんな妹存在するんだ……まあAdaさんだしな』


 「えっえっえっ、一緒にお風呂……!?」

 「だから入ってないからな? それこそゴールデンウィークに帰って来た時も一緒にお風呂入ろ~?とか言ってきたしね」

 

 「冗談のつもりで言ったのに、そんな風に誘ってくる妹が……! 私が誘ったらAdaさん入ってくれますか?」

 「入るわけないだろ、てか水無瀬さんが一番無い。絶対襲ってくるもん」


 俺のコメントがかなり刺さったのか水無瀬さんは唸り声のような声をだし、数秒何も反応が無かった。

 これはマズい、俺が繋がなければと思い俺は適当にコメントする。


 「まあ水無瀬さん、このコラボ前に私とびっきりの変態なんで~とか言ってたし、今の俺のコメントが刺さりにささってゾクゾクしちゃってるのかな?」

 「……ゾクゾクなんてしてません」


 「おっ、帰って来た。息してます?」

 「してなかったら喋ってないでしょうが……」

 

 「お怒りの様子ですね」

 「ここまでコケにされたら、黙ってられません! 今からタイマンしましょう」

 

 「ふっ、まあ前回は手抜いてましたしね。それにハンデも大量にありましたし、流石に勝っちゃいますよ?」

 「……ハンデはお願いします」


 「お願いできて偉いですね」

 「ぐぬぬ……」


 こうして、意図していなかったが流れによってタイマンすることとなった。

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