第19話 勝利

家に帰って来た。

 桜華とプリクラを撮った後は、そのまま映画館併設されている総合スーパーに向かった。

 総合スーパーでは、初めに現在公開されている「君が消えないように願う日々」というラブロマンス映画を見て来た。

 

 ヒロインである三越美花佐は世界で二例目の病気『透明化症候群』という病を発症する。

 この透明化症候群とは、その名の通り体の一部が徐々に透明になっていき最終的には体全てが透明になり、透明になった本人は生きているが周りの人間に一切干渉することが出来なくなってしまうという病気。

 他にも、干渉することが出来ないので水や食べ物を飲んだりすることも出来なくなるし、何かに触ったりすることが出来なくなってしまうという症状があるとの事。


 透明化症候群に苦しむ美花佐とヒロインの彼氏であり、婚約者である橘翔也が共に病気に抗い、奮闘していくという内容だった。


 150分の映画だったのだが、時間の割にはとても繊細に描かれていてとても面白かった。

 桜華に関しては泣いていたがな。

 まあでも、俺も最後美花佐が完全に透明になってしまって声しか聞こえなくなってしまうというシーンには泣かされそうになったがギリギリで堪えた。

 

 そして現在、俺はというと今日も今日とて配信の準備をしていた。

 時刻は7時前、Discardのサーバー内に人が集まり始めた。

 

 「Adaさんこんばんは~! 今日もお願いします!」

 

 今日もいつも通り元気な水無瀬さんが一番乗りだ。

 そして徐々に人が集まり始め、今日は俺のチームは人が揃った。

 

 「んじゃ、今日もいつも通りお願いしますね」


 俺がそう声を掛けると三人息の揃った「はい!」という声が聞こえた。

 俺はその声を聴き、微笑ましく思いながらミュートにした。


 ~~~


 「そして取り切ったのは水無瀬しずく率いる雨風ぬるぬるだー!」

 「うおっ、今のプレイ良かったな」


 本配信から実況の大きな声が聞こえ、サーバー内からは歓声が聞こえる。


 「やった、やったよnullさん! 葵ちゃん!」

 「うおぉ! これがチャンピオン!」

 「やった、やりました! 初めてです!」


 カスタム3日目にして初めてチャンピオンである1位を取る事が出来た。

 今までも2位や3位と言い、惜しい順位までは行っていたのだが1位は今回初。

 世界大会でも一度1位は取ったが、やはりこういう大会での1位は普通に取った1位と比べ物にならないくらい嬉しい。


 「お疲れ様です。今回の試合凄く良かったです、非の打ち所が無いと言いますか中盤で一度危ない所がありましたが、そこも三人の連携が嚙み合って良かったですし、なによりも最後の3対3でちゃんと一枚にフォーカスを合わせて尚且つ、一枚も落ちずに3対2の状況を作り出した瞬間には正直度肝を抜かれました」

 「いやでも、やっぱりAdaさんがいたからこそ今回勝てたんだと思います!」

 「そーですよAdaさん、Adaさんが初日に私たちの欠点を見抜けてなかったらここでは勝ってないと思いますしね」

 「Adaさん、絶対コーチング初めてじゃないもん! 凄く分かりやすかったです!」


 三人口を揃えて感謝の言葉を述べる。 

 凄いなこれ、高揚感が半端ない。

 

 確かに三人がチャンピオンを取った時、俺も凄く嬉しかった。

 水無瀬さんとのコラボの件は置いておいて、三人とも俺の言った欠点をすぐに理解してそれを治すように努力。

 水無瀬さんも個人メッセージでキャラコンのやり方を聞いて来ていて、ちょっとしか教えていないのにすんなりとマスターしていた。

 nullさんと風葉さんも関わった時間は水無瀬さんと比べるとだいぶ少ないが、それでも言った事は売れで練習していたのか大体治っていた。

  

 今回のマッチで優勝できたのは確かに俺の力もあるかもしれないが、それでも三人の努力の結晶だ。

 

 「あははっ、皆さんが個人個人で努力してるからこそ今回勝てたんだと思います。本番でもこんな感じでお願いしますよ?」

 「「「はい!」」」


 息の揃った返事を聞けたことだし、今回指導する点は何もない。 

 俺はミュートにして本配信に目を向けた。

 

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