第17話 軽い喧嘩
「……起きて! ……さん!」
聞きなれた声、決して高すぎず、かと言って低くはない心地良く耳に優しい声。
「……ん、なんだよ」
「もう8時だよ? どっか遊びに行こ―よ!」
体に何かがへばりついている感じがし同時に体を揺らされている感覚がある。
重い首を回し、後ろを向くと満面の笑みの桜華が抱き着いていた。
「んだよもう、まだ8時だぞ? それに昨日は夜遅くまで構って疲れてるんだ。もう少し寝かせてくれ」
昨日は風呂に入ろうとしたら桜華に「飲酒後の風呂は危ないからだめ!」と強く反対され、その代わり適度にアルコールが抜けるまで二人で雑談をしたりゲームをしたりしていた。
最後に記憶があるのは確か2時過ぎ、いつもの俺ならば既に寝ている時間。
時々、深夜配信とか言ってHEROX以外のゲームをちょこっと触ったり雑談もしているが最近はSpeakを抜けた事もあるし、俺のゲームに対するモチベーションが薄れているため行っていない。
それに、ここ最近はカスタムでもの凄い集中力を使うためカスタムが終わったら風呂に入って寝てしまっていたので生活リズムが整って来ていた。
そこでの2時まで妹と雑談。
リズムが整えられるとは言っても急な生活リズムの変化で体の疲れが大きくなり、その疲れも若干抜けずらくなっていた。
「せっかくこっちに帰って来たんだし、家に居るのはもったいないじゃん!」
「んだぁもう! 分かったからちょっと待ってろ!」
渋々俺が了承すると桜華は元気な声で「やったー!」と言い部屋から出て行った。
頭をボリボリと掻き、俺はスマホを手に取って自室を出た。
二階から一階に行き、リビングに出る。
リビングの机には桜華が作ったであろうトーストが置かれている。
湯気が出ているので作りたてだと分かる。
桜華は料理に関しては人並み以上に出来る。
昨日は疲れていたのかどこかで食べて来たのか分からないが夕食を作っている様子は無かった。
トーストはただ食パンを焼いたわけではなく、ほうれん草、卵、ベーコン、トウモロコシなど様々な食材が乗せられており、尚且つ卵スープが見える。
「お前、これ作ったのか?」
「ん? そうだけど、作ったって言っても朝はめっちゃ手抜きだよ? トーストだって材料乗っけトースターで焼いただけだし卵スープも市販のやつ。まあ、夜なら兄さんの為に作ってあげても良いけどね」
スープが市販だとしても、俺はトーストなんていう豪勢な物作るなんて無理だ。
焼くだけとは言ってもどれくらい焼いたらいいのか分からないし、そもそも材料を買う事ですらままならない。
流石に野菜の区別はつくがな。
「あーそう、じゃあ夜飯は頼んだ。最近コンビニ弁当しか食べてないからな」
「ちょっと、体壊すよ? 兄さんもちゃんと料理覚えて自炊してよね」
「分からないんだから仕方ないだろ。それにお前は母さん子だったから料理とかいっぱい教えてもらったんだろ? あーでも、今でも火傷したら泣いちゃうかな?」
「兄さんは父さん子だったし、そりゃ料理が出来なくて当たり前だもんね~? それに、火傷なんて今はへっちゃらだし~!」
またいつもの煽り合いが始まった。
なんで互いに同性の親が好きだったのか。
それは、俺たち兄妹は互いに連れ子だったからだ。
俺たちは血の繋がらない義理の兄妹。
それと補足しておくが別に第二の母親が嫌いだった訳じゃない。
出会いは遡る事15年前、俺が6歳で桜華が4歳の時だった。
俺の母さんは体が弱く、俺を産んだ後にすぐに死んでしまったんだ。
死因は聞いていない、というか聞きたくもなかった。
母さんは、俺を妊娠していなければ死ななかった。
だから、俺が殺したようなもの。
そういう風に思いながら俺は今も生き続けている。
たとえ、俺が悪くなくても。
話を戻すが第二の母親と出会ったのは俺が5歳の頃。
急に父さんがちょくちょく女の人を連れてくるようになった。
最初は本当の母さんの兄妹なのかなとか思ってたけど母さんの写真と見比べても全く似てなかったし、たまに桜華の話をしていたことを覚えている。
そして父さんと第二の母親は俺が出会って一年後、一人の女の子を連れて今も住んでいるこの家に住み着くようになった。
今となって考えれば分かるが、父さんと母さんは俺たちの知らない間に結婚をしていた。
桜華が家に来た時は既に苗字が光永だったし、桜華は家に来て直ぐに父さんと分け隔てなく話していた。
ちなみに、どうして桜華に本当のお父さんが居ないのかは聞いたことが無い。
それも、聞かないようにしていた。
父さんは桜華について俺が聞かないから気を遣っていたのかは分からないが、父さん自身から教えてくれることは無かった。
今桜華に真実を訪ねれば教えてくれるのかもしれないが、それを聞いてしまったら桜華に気を遣わせる気がする。
だから俺は、親という存在については聞かないようにしているし今は自由にやっている桜華に対しても、俺は常に心配している。
桜華がこの先、どんな人に出会いどんな事になるかなんて俺も分からないし桜華自身も分からない。
それを支えてあげるのが兄であり、親であると思うから。
「はいはい分かりました。料理の出来ない惨めな兄さんに美味しくて愛情たっぷりの妹特製手料理を食べさせてください」
「はうっ! そ、そんな風に言うの反則! 全くもう、兄さんったら変態なんだから」
「変態とはなんだ! 俺はちゃんとお願いしただけだろ!」
「こんなシスコン、世界中探しても兄さんしかいないだろうね。このシスコンバカ!」
「んだと!? そんなこと言ったら兄に対して『兄さん髪乾かして~』とか『甘えん坊な妹の方がいいでしょ?』とか言ってくるブラコン妹、世界中探してもお前しかいないわ!」
「うっ、うぅ……それは、そうだけど……! でも、兄さんはシスコンバカなんだから大人しく私の命令に従え!」
「最初から従ってるわ! 仕方なくだけど……それより、今日はどこに行くんだよ」
「え? んー」
桜華はあざとく口元に指を当て、考えるような素振をした後、腑抜けた声を上げた。
「特にないや!」
「はぁ……じゃあ、昼から映画でも行くか?」
「あ、それ良いね! とりあえずゲーセン行きたい!」
「は? ゲーセン行って何すんだよ」
桜華は俺の問いに対し「プリクラ撮ろ!」と言いそのまま「今からメイクしてくる。着替えといて!」と言い二階に行くための階段を勢いよく上って行った。
「はっ、元気な奴だ」
独り言を吐いた後、俺は机の上に置いてある冷え切ったトーストにかぶりついた。
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