第13話 勝敗
「ふっ、このハンデで負けるはずがない!」
「まあまあ、それは戦ってみれば分かりますよ」
俺の考えでは水無瀬さんに先に二本取らせて、調子に乗った所を三本連続で取り絶望に叩き落とすという考えなのだが、水無瀬さんがどれぐらいの実力なのかまだ計り知れない部分がある。
いくらカスタムでのプレイを見たとは言え、一対一となると個人のプレイスキルが物を言うため実戦でのプレイだけでは個人の技能を測る事は難しい。
とりあえず一本目は様子見だな。
「じゃあ、自分がグレ投げるんで爆発したら開始で」
「わかりました。まあ、地獄に落としてあげますよ」
こうして一本目が始まった。
一本目の結果は当然俺の負け、そして分かった事は余裕で勝つことが出来そうだいうこと。
水無瀬さんのプレイは、俺の戦法や俺の使うキャラコンが多めで独自の物が一切ない。
言葉を選ばずに言うと俺の劣化版と言う訳だ。
俺の動きは俺が一番知っている。
水無瀬さんは俺が良く使うキャラコン、エッジスライドと壁ジャンを多用する。
壁ジャンはその名の通り自ら壁にぶつかり、ぶつかった瞬間にジャンプ入力をすると壁を蹴れるというもの。
誰もが使っているキャラコンで習得難易度も低いため覚えやすいものだ。
そしてエッジスライドとは、キャラクターが段差を上る動作をした瞬間にダッシュ入力としゃがみ入力をすることで大きく前に飛び出すことができるというもの。
こちらは壁ジャンとは違い習得難易度が高く、上手く使える人も少ない。
だが、使えれば強いし相手が瞬時にAIMを合わせる事が難しくなるため被弾も減る。
水無瀬さんが使ってくるキャラコンは確認できている物だけで二つ、俺が最も得意とするキャラコンで尚且つ頻繁に使用するキャラコン。
だが、俺は使わないだけでほぼ全てのキャラコンを習得している。
キャラコンミスを演じ、タイマン場にある大きな岩の段差に引っかかったような動きをし、そこを穴だとついた水無瀬さんがAceTryで俺の事をワンマガジンで倒した。
「うっわ最悪、てかこんな強いのか……」
「Adaさんよわ~い! これは私の勝ちかなぁ~?」
「くっそ……」
調子に乗らせるために俺は悔しがっているような声をあげる。
「それじゃあ二本目いきましょうか? Adaさん?」
「マズいな、本当にマズい」
二本目も似たようなキャラコンミスを演じ、そこを水無瀬さんがワンマガジンで持って行った。
「あれれ? Adaさんどうしたんですか?」
「結構本気なんだけど、水無瀬さんが上手すぎる……」
「いや~、憧れの人をペットに……想像するだけでゾクゾクするなぁ!」
「自分から吹っ掛けて置いて負けるのだけは嫌だな」
水無瀬さんを最大まで調子に乗らせた。
あとはエンターテイナーとして、全力でボコすのみ。
さあて、全力で潰そうじゃないか。
「いや、マズい。マジで負ける」
「それじゃあ最後の試合、いきましょうか?」
「ああ」
「ペットになってくださいね?」
「絶対に断る」
こうして、三本目が始まった。
初手で打ち始める武器はサンセット。
先ほどまでキャラコンミスで引っかかっていた段差を利用し、まずはエッジスライドを使用。
これにより水無瀬さんの方に一気に近づき、更にタップベントというキャラコンを使う。
このタップベントとは進行方向にマウスを動かしながら横移動キーを入力してキャラの移動を加速、また斜めに移動したり急速に横に移動したりするもので、習得難易度はとても高いがプロの中では一般的に使われている。
エッジスライドとタップストレイフ、どちらが難しいかと言われればエッジスライドだが、タップベントは連続でキーを入力する為使用難易度で言えばタップベントの方が難しい。
水無瀬さんの目の前でタップベントを使いサンセットで黒アーマーを割った後はコンレイクで体力を削り、水無瀬さんを倒した。
「ふぅ~、あぶないあぶない」
「え、まさか今まで本気じゃなかったんですか……?」
震えた声で水無瀬さんが聞いて来た。
「もちろん。あんなキャラコンミス滅多にしないからね」
「え、う、うそ。でもAdaさんがタップストレイフ使ってるとこ見た事無いし、どういうことなの……?」
「タップストレイフぐらい序の口ですよ。何なら他のキャラコン全部できますよ? 使って無いだけで」
『全部のキャラコンは嘘だろww』
『え、でもAdaさんがタップストレイフ使ってるの見た事ないしなぁ』
『まあでもAdaさんならキャラコン全部マスターしててもおかしくは無いなwww』
そうだそうだ、絶望するのだ水無瀬さん。
なんか変な物に目覚めそうだけど、人をどん底に落とすのって楽しいんだな。
コメント欄も盛り上がりを見せ、コラボだからなのか視聴者数も増えてきている。
色んな配信者がカスタムを終え、配信が終わっているためまだ配信している俺や水無瀬さんに人が流れてきているのかもしれない。
「じゃあ水無瀬さん、四本目、行こうか?」
「ひえっ、あ、あのやっぱり辞めません?」
「え、なんで?」
「い、いやその……」
「理由は無いという事で、じゃあ四本目行こうか!」
「……はい」
流れで無理矢理強行し、四本目。
先ほどと同じ様な戦法で四本目も俺が勝利。
そして勝者を決める五本目。
「じゃあ分かった。俺サンセット捨てるよ」
「え、ほんとですか?」
「うん、ほら捨てた」
「もういじわるしないですか?」
「しないよ」
水無瀬さんの方は負けを確信していたようで語彙力が無くなっていた。
正直ここで勝ってしまっても良いが、DOCUPがあるためメンタルを崩壊させてしまえば大会に影響が出る。
逆に俺が負ければ水無瀬さんは俺に命令出来てメンタル面などを回復できるだろうし、彼女は昔から俺のファンだったらしいしな。
少しは良い思いをさせてあげよう。
「じゃあ行くよ?」
「……はい」
こうして開始のグレネードが爆発した。
先ほどと同じくエッジスライドからのタップストレイフ。
だが前回と違うのは今まで正確に当てていたコンレイクを全て外し、リロードするという隙を水無瀬さんに与えた。
ここしかないと思ったのか水無瀬さんはAceTryを打ち切りアーマーを割った後、透かさずドレイクに持ち替えて俺を倒した。
「うっわマジか」
「え、私勝った……?」
「おめでとうございます、水無瀬さん」
「やったぁ! 私、Adaさんに勝った!」
大きなハンデありとはいえ、世界大会二位の俺にタイマンで勝ったのは誇る事だ。
それに俺が水無瀬さんの立場だったら緊張とプレッシャーでそもそもタイマンなんて出来ないだろうし、俺とこうやって戦えるだけでも凄いことだ。
「負けちゃったかぁ、じゃあ何がお望みですか?」
「うわははっ! えっとえっと、じゃあ……!」
水無瀬さんが嬉しそうに口にしたのは、俺の予想の斜め上を行くものだった。
「じゃあ今度、私とオフコラボしてください!」
こうして彼女の発言により俺のコメント欄は火の海と化した。
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