第8話 戦闘

 「初動被りはなさそうだな」


 観戦者権限のドローン視点で俺は周囲を見渡す。

 俺が見ようと思っている所は大きく分けて三つ。

 一つは漁り方、二つ目は戦闘中の報告、そして最後に個人の戦闘スキルと言った所だ。


 水無瀬さん達が降りた町はガードナーの闘技施設という名前付きの町で、俺が世界大会でランドマークにしていた場所だ。

 この場所は本来のカジュアルマッチやランクマッチだと激戦区になるのだが、世界大会や今回のDOCUPのようなカジュアル大会になると激戦区と言うイメージが付いているため、降りるチームは案外少ない。

 現に水無瀬さんもそこに目を付けてこの町に降りたのだろう。


 漁る場所が多く、物資状況は比較的潤っている。

 弾薬も不足は無いし回復も十分な量を確保している。

 武器のカスタムなどに関してはまだ不十分な人もいるが、まあそこら辺はプレイヤーの技量でなんとかなる部分だ。

 問題はアンチ。


 FPSゲームでは時間を追うごとにアンチと言う物が迫って来て、その範囲内に入るとダメージを喰らう。

 時間を追うごとに収縮される範囲が狭くなり、それに伴い喰らうダメージは段々と大きくなる。

 そして今回、水無瀬さん達が降りた町は安全区域アンチ外。

 ここから安全区域まで移動しなければならないのだが、ここで敵と接敵してしまうとアンチに追われながら戦わなければならないのは勿論、銃声を聞きつけて周囲の敵が寄って来て漁夫が来てしまう。

 だから世界大会など問わず、俺は全てのマッチで初動ファイト以外、残り15部隊になるまでは戦わないようにしている。

 敵に撃たれてもだ。


 水無瀬さん達の移動が始まった。

 前から探知キャラのエリストスを使っている風葉さん、図体がデカく狙われやすいガードナーを使っているnullさん、そして最後に一人になっても戦線離脱が可能な水無瀬さんという並び順。


 本当に良く出来ている、相当知識を詰め込んだんだろうな。

 

 しかし見てて思うが、水無瀬さんの漁り方や行動パターン、コールのかけ方など全てが俺に似ている気がする。

 漁る時、回復を多めに取ったり、常に周りを警戒するために「周り警戒ね」とメンバーに声を掛けたりと似ている点が多い。


 試合は進み、戦闘することなく残り13部隊まで来た。

 アンチは第二収縮目、水無瀬さん達の周りには2部隊いるが彼女たちは気付いていない。

 戦闘も起こっていないし足音も聞こえる範囲では無いのだが、このまま行けば水無瀬さん達は戦闘を起こすことになるだろう。


 「まって、足音する。葵ちゃんスキャンお願い!」


 水無瀬さんがいち早く敵の存在に気付き、風葉さんにスキャンをするように指示をする。

 

 「ほんとだ!」

 「影の形的にガードナーとエリストスは見えますね」

 「了解です。私前線張るので葵ちゃんはアビリティ吐いちゃっていいよ!」


 スキルで無敵になることのできるヴォイドが前線を張り、一番狙われやすいガードナーを後衛に回す。

 そして風葉さんも大事なスキャンを欠かさずにして、尚且つグレネードなどで敵を牽制している。

 

 そして最も評価すべき点は水無瀬さんのAIM。

 試合開始早々、彼女は持っている武器にわざとカスタムを付けずに優先して風葉さんやnullさんに制度の高いカスタムを譲っていた。

 そして今、彼女が武器に着けているカスタムは最底辺のレベル1の拡張マガジンだけ。

 彼女の使っている武器『R-901』は武器の反動が少なく、初心者でもリコイル制御が簡単な武器なのだがカスタムがレベル1だと扱うのは普通に難しい。

 この武器はワンマガジン最大カスタムで340ダメージ出て、彼女の着けているカスタムだと最大ダメージは280まで落ちる。


 「ガードナーやった! これnullさんの前ドームで詰めましょう!」


 レベル1カスタムのR-901のワンマガジンで敵を落とすことは難しいのだが、彼女のリコイル制御はとても綺麗で俺が見てもブレが無いように見えた。

 その証拠に、彼女一人の攻撃で敵のガードナーをダウンさせた。


 「分かりました、ドーム前に焚きました!」

 「風葉ちゃん前出て!」

 「はい! あ、エリストス割ってます!」

 

 その後も三人の連携は素晴らしく、最後に逃げようとしていた毒ガスを設置す出来るキャラ『ポイメル』をnullさんがお得意のスナイパーライフルで仕留め、戦闘は終了した。

 周りにいた敵はあまりにも戦闘が早く終わったためかタイミングが合わず、漁夫には来なかった。


 そして、今回の戦闘で悪かったと言えば、風葉さんが『相手のエリストス割った!』としか言わなかった点だ。

 本来ならばどれだけ敵にダメージを与えたか正確な数字を言った方が味方的にもありがたいのだが、細かい点を言っていても仕方がないし、風葉さんは初心者だ。

 それに全体的に見ても上出来な方だし、この点が大きな問題になったら報告すれば良い。

 

 「ふっ、面白くなってきたな」


 俺は鼻で笑った後、本配信に目を向けた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る