第9話 初仕事
「うわー! 今の絶対勝てたのに……!」
水無瀬さんの悔しそうな声がサーバー内に大きく響いた。
というのも、今回の試合の結果は第二位。
水無瀬さんが1対1で負けてしまった結果の二位。
メンタル的にはかなりくるが、本戦で挽回すれば何も問題は無い。
俺は試合が完全に終了したことを確認してミュートを解除した。
「皆さんお疲れさまでした」
「あ、Adaさん! ちょっと悔しいんですけど!」
「ハハハ、まああの場面は仕方ないですね。風葉さんもnullさんも落ちてましたし、1on1は緊張もしますし、本番で巻き返しましょ!」
「はいぃ……」
水無瀬さんの配信では丁度負けた要因となった1対1が映し出されている。
動きとしては悪くは無いのだが、近距離でのAIMが少し震えているのが分かる。
前に連絡を取った時に大会は今回が初めてって言ってたし、本当に緊張が影響しているだろう。
カスタムは一週間あるからカスタム中は緊張が徐々に薄れていくと思う。
しかし、カスタムで慣れ過ぎると本番の雰囲気に流されてカスタムよりも緊張してしまう傾向もあるから、メンケアは必要に応じてしていくしかないか。
「えっと、動きとしては思ってた10倍ぐらい良いです!」
「ほんとですか?」
「おおー! やっぱ練習しまくったからな」
「シルバーでも役に立ってますか!?」
「はい、皆さん凄く良いです。風葉さんはアビリティのタイミングはバッチリでしたし動きもしっかりしてます。まあでも余裕があったらで良いんですが、ダメージの報告は正確な方が良いですね。正確じゃなくても、例えば142ダメージ入れたのなら140入れた!と端数を処理してでも良いから言った方が良いです」
風葉さんが「な、なるほど……」と感慨深い声を上げた。
「次にnullさんですけど、前回一緒にやった時と比べてめっちゃ成長してて正直驚いてます。対面してワンダウン持って行ってからの前ドームの判断も素晴らしいですし、爆撃のタイミングもバッチリ。そして何よりアーマーの育て役として、しっかり仕事をしているのが素晴らしいです」
HEROXには進化アーマーという要素があり、下から順に白、青、黄、紫、黒という順で強くなっていく。
そして白アーマーから黒アーマーにするためには合計で敵に1250ダメージ与えなければならない。
これは白アーマーからの数値なので多く感じるが、紫から黒にするのにも700ダメージも与えなければ進化しない。
そして今回、nullさんはお得意の狙撃銃で敵にチクチクダメージを与え続け、水無瀬さんのアーマーを黒まで、風葉さんのアーマーを紫まで進化させた。
アーマーの育て役がいるだけで戦況は全然変わって来るので、彼女は本当に素晴らしい。
「え、マジですか。やったぁ」
クールな歌い手ボイスでnullさんは喜びの声を上げた。
「そして最後に水無瀬さんですが」
「……はい」
「文句ないですね。非の打ち所が無いと言いますか、AIMなど技量が伴う部分に関しては自分と比べて劣っている点もあります。ですが、逆に言うとそれ以外は本当に自分を投影したかのようでした。もしかして、結構前から自分の事見てます?」
俺は半笑いで彼女に聞いてみると、水無瀬さんは「はい、駆け出しの頃から見させてもらってます」と照れ臭そうに言った。
そんな彼女の一言に、俺は凄く気分が高揚した。
今までオンラインイベントなどでファンなどから激励の言葉や尊敬の念を示されたことはあったが、他界隈でパクリ行為をするのは不敬に値するが、FPS界隈でプレイスタイルをパクられるのは、それはもうパクった本人を推重しているようなものだ。
Twllterで『日々Adaさんの設定を真似したら勝てました!』報告が来るが、やはり観戦視点で自分の真似をしているのだと気付くと自分の承認欲求が満たされている気がしてとても良い気分になる。
「えっと、Adaさん?」
水無瀬さんの問いかけで俺は現実世界に引き戻された。
「あ、すみません。ちょっと考え事してて」
「えっと、やっぱり不満でもありましたか? 何でも言ってください、私、全力で改善しますから!」
まあ、全力で取り組むことは大切なのだが、最初からブーストをかけて大会本番で燃え尽きられては困る。だがまあ、俺の同じ配信者だし、少し過激にやっても体力的には問題ないだろう。
「いや、ほんと大丈夫です。二試合目始まるんでさっき言ったダメージの点を意識しつつ、水無瀬さんはブーストかけ過ぎずに頑張ってください。んじゃ、ミュートします」
「はい、わかりました」
「Adaさんの教え方分かりやすいね~」
「なんで私だけ念を押されてるんですか!?」
水無瀬さんの反応が面白くてミュートにしたあと、一人でクスっと少し笑ってしまった。
あと二試合、三人とも本気みたいだし俺も本気でサポートしてあげないとな。
カスタムのコードが専用サーバーで発表されたので、俺はカスタムに入り観戦者枠に入った。
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