第6話 開始のアナウンス
「すみません! 遅れました!」
配信の準備が整い、カスタム開始まであと10分と差し迫った所で風葉さんがやって来た。
ここで怒るコーチも居るのかもしれないが、別にカジュアル大会だし怒って士気を下げたら試合に影響が出るかもしれない。
「大丈夫ですよ、あと5分ぐらいなら射撃場行けますけどどうします?」
「すみません! お願いします!」
「了解です」
俺は配信開始のボタンを押し、ミュートにしてから挨拶をする。
「うっす、どもども。今日は初めてのコーチングという事で、頑張っていきます。あと、運営さんから5分遅延を入れるように言われてるので、この挨拶が伝わってるのは今から5分後になるのかな? まあ、とりあえずよろしくという事で、何かあればコメント頼みます」
ワイプを繋げ、その後に俺のHEROXの画面を映す。
水無瀬さんやnullさんと雑談していたせいか、意外と緊張はほどけていた。
だが、胸がソワソワする変な感じが残っていて気分は良いとは言えない。
「とりあえずエイムだけ温めてもらって、初戦は自分の好きなようにプレイしてください。一応なんですけど、オーダーを誰がやるかだけ教えてもらって良いですか?」
俺の問いに対して反応を示したのはコーチングを依頼してきた張本人である、水無瀬さんだった。
先ほどの雑談で聞いた話なのだが、彼女、HEROXの最高到達ランクはマスターとの事。
マスターは全体の約1%しかいない区分で、しかも女性となると本当に凄い。
だが女性のマスターは残念な事に強い人に手伝ってもらってマスターに到達したキャリーマスターやマンブーと呼ばれる事が多い。
詳しい説明は省くが、もの凄く簡単に言えば姫プしてもらったんだろ、という事だ。
俺としては実力を見ずに物事を言うエアプも増えてきているので、とても悲しい。
実際、彼女のコメント欄を見てはいるがそのようなコメントがポツポツと見られる。
アンチに打ち勝ちながらも毎回めげずにプレイして、上達して得たランク帯なのに見ていると心苦しくなる。
まあだが、水無瀬さん本人はそんなコメントには興味が無いのか、青と金色のツートンカラーの髪をなびかせ、機嫌良さそうに体を揺らしている。
メンタル面に関しては強い方なのか、今は心配してなくても大丈夫だろう。
「えっと、nullさんは以前やった時に把握しているんですけど、一応確認として最高ランクはプラチナですか?」
「ムフフ、Adaさん。実は私、最近ダイアに昇格したんですよ!」
「えっ、マジすか。凄いっすね」
女性ダイアも相当凄いと思う。
マスターの一つ下とは言え、前シーズンダイアに達成した人は全体の約5%。
マスターと比べれば劣ってしまうが、それでも十分だ。
「なるほど、じゃあ最後に風葉さんは最高何ランクですか? 自分全然把握してなくてすみません……」
「……シルバーです」
「ぷっ、葵ちゃんその言い方可愛い。Ada先生に媚び売ってるの?」
入って来た時の慌てた声ではなく、今回は優しくしんなりとした声。
それに対して煽りを言う水無瀬さんのやり取りがなんとも面白く感じてしまった。
「アハハ、二人は面白いですね。大丈夫です、自分なんてコーチングブロンズなんでシルバーでも大丈夫ですよ!」
「ちょっとしずくちゃん! 先生に気使わせちゃったじゃん!」
「ぷっ、ごめんごめん。つい面白くてさ」
開始5分前のアナウンスがDiscard内のサーバーで告知された。
俺が三人に「じゃあ、初戦お願いします。ほんと好きなようにやってもらって良いので」と言い、俺はミュートにした。
その後俺はタブを二つ開き、水無瀬さんの配信と俺の配信を開いてコメント欄を確認し始めた。
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