第5話 メンバー

 サーバーに入ってみたものの、参加者は俺一人。

 気長に待ちながら配信の準備を進めようかと思っていた時、誰かがサーバーに入室したことを知らせる通知音が鳴った。

 

 「あ、どうも初めまして。ストリーマーのAdaと申します」

 「あ、えっとえっと、初めまして。Keith Heaven所属の水無瀬しずくと申します……!」


 緊張しているのか若干声が震えているのが分かる。

 俺も世界大会と比べたら段違いだが、緊張はしている。


 「えっと、今日はどんな感じにコーチングすれば良いですかね。思った事をそのままいう感じか悪い所と良い所を拾っていう感じか……」

 「いやえっと、もう思った事そのまま言ってもらって大丈夫です! あの、私! Adaさんの凄いファンでいつも配信見てHEROXの勉強してたんです! だからその、Speak抜けるって聞いた時はショックっていうか、なんで抜けちゃうんだろうって思ったんですけど、やっぱり契約が終わっちゃったからですか? 世界大会だって2位までって凄い戦績だったのに、どうして……」


 もの凄いマシンガントークについて行けなくなる前に、俺が静止させた。

 確かに、ファンからしたら俺がSpeakを抜けたのは衝撃的だっただろうし、その後にG4siinや4KAGIも抜けたため、皆驚愕しただろう。


 「まあまあ、そんなに興奮しないで。これから1週間関わっていくんだからゆっくりと行きましょ? ここで話過ぎたら配信でのネタが無くなっちゃいますよ」

 「そ、そうですね……すみません……」


 他のサーバーを見てみると既にコーチと出場者が集まっている場所もあり、徐々に配信を始める人も増えて来た。

 HEROXは一チーム三人で戦うゲームなのだが、他二人のメンバーはどうしたのだろうか。

 そういえば、名前すら聞いていなかったな。


 「えっと聞きたいんだけど、他二人は?」

 「ああすみません! まだ準備中みたいで……」


 「良いよ、そんなに焦んなくても。てか、俺も申し訳ないんだけど他二人の名前見てないんだよね。なんていう人か教えてくれる?」


 水無瀬さんは慌てた様子でメンバーの名前を教えてくれた。

 名前は風葉葵かぜはあおいというVtuberとnullという女性歌い手の方。


 nullさんは前に案件で一緒になった事があるのだが、風葉さんの方は全くの無縁。

 今回が初顔合わせとなるわけだが、まあ水無瀬さんとも初顔合わせだし何とかなるだろう。

 そして補足だが、風葉さんと水無瀬さんは【Keith Heaven】(通称キスヘブ)という同企業のVtuberらしい。

 

 そうこうしている内にnullさんがやって来た。


 「あ、どもどもAdaさんお久しぶりです。配信中ですか?」

 「配信外です、大丈夫ですよ」

 「あ、私も配信外です。nullさん今日からお願いします!」

 

 nullさんと水無瀬さんは仲が良いのか、それとも互いにコミュ力が高いのか分からないが直ぐに仲良くなり、ほどなくしてプライベートの話で盛り上がってしまった。

 会話について行けず、一人取り残された俺はというと会話には参加ぜずに配信の準備をダラダラとしながらSNSに目を通していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る